不器用な彼女と俺








最近の俺の気がかりは



数日前に部屋でなくしたサングラスと

1か月後に迫ったアルバムの発売と

うっかり黒沢に食わせた賞味期限切れのカレーパン

ちょっとの寝不足と



・・・あいつの態度










RRRRRRRRRR



「もしもし?」

「あ、朝日。何やってんの今。」

「え?・・・仕事だよ?」

「何その間は?」

「何でもないよ!どうしたの?急に。」

「・・用がなきゃ電話しちゃいけねぇの?」

「別にそんな事言ってないじゃない。」

「あーもー別にいいよ。しゃべる気失せた。切るわ。」

「え?切っちゃうの?」

「うん。じゃ。」

「・・・じゃぁ。」




・・・・



あーもー俺ってバカ

何でそんなトコで切れんだよ


「何でそこで切れるかな?」


「っ!!!」



気付くと楽屋にはヤスがいた




「聞いてんなよお前。」

「別に聞きたくって聞いてたわけじゃないよ。テツが電話する前からいたし。」

「え、うそ?」

「ほんと。テツずーっと携帯眺めてて気付かなかったでしょ。そんな気合入れて誰に電話するのかと思えば・・・」

「・・・はぁ」

「朝日ちゃんだよね。電話。」

「ん。」

「・・ケンカ中?」

「ケンカはしてねぇ。」

「え?ケンカしてないのにあんな態度?・・・コワっ。」



わかってる


わかってんだよ


うるせぇな




ヤスはうなだれてる俺をしばらく見て

呆れた溜息をついた後

自分の荷物からタオルを取り出す

どうやらそれが用事だったらしい


楽屋を出ようとしたヤスが立ち止まる




「てっちゃんさぁ・・・」

「なに。」


「・・・やっぱりいいや。」

「何だよ、言えよ。」

「やだよ言ったら怒るもん。」

「怒らないから言えって。」

「いやだ。」

「ちょ、待てって!言いかけてやめんな。男ならお前責任持ってものを言え!」

「!それてっちゃんにそのまま返すよ。」

「・・・は?」

「てっちゃん自分の言う事にもっと責任持った方がいいよ。」

「・・・何だよそれ。」

「感情に任せて言ってるけど、言われた方はずっと残るんだから。」


少しだけめまいがした


「朝日ちゃんに言ったこと考えてみたら?」




        "あーもー別にいいよ。しゃべる気失せた。切るわ。"



ほとんど力の入らない手で携帯を握りしめる


自分の口をひねり潰してやりたくなった



「ま、説教するつもりはないけどさ。それが言いたかったんだ。」



いつものヤスの笑顔に戻る

楽屋を出て行こうとするヤスを

俺は無意識に呼び止める



「なぁ!」

「ん?」

「俺・・・今まで結構、お前らにもそういう事言ってきた、よな?」




言ってて顔から火が出そうだった

俺がヤスの一言で反省?

ほとんどヤスに笑われるのを待つような間の後

ヤスはあっさり笑顔で言った



「てっちゃんのそういうとこ判ってるから、全然気にしてない。」


ヤスはそのまま楽屋を出て行った






バカ、だよな俺

ちょっとよそよそしい態度の彼女に

不安になったって素直に言えばいいものを



何で俺ってこう

不器用なんだろう


何で朝日のこととなると

こんなに周りが見えなくなるんだろう



「何かあったのか?」って

一言聞いてやることが何でできない?

今すぐにでも電話をかけなおしてやればいいじゃねぇか


あんな風に電話を切って

逆に不安ふっかけてどうすんだ




「黒沢。ちょっと俺私用で抜けるから。30分で帰ってくる。」





******



ピンポーン


電話しても出なかったので

結局彼女の家まで来てしまった


車に乗るまでもない距離だったとはいえ

やっぱダッシュで来るのは間違いだった

息があがったままチャイムを鳴らす




「・・・んで出ねえんだよ。」


電話では仕事だと言っていたけど

あれは嘘だってことぐらい判った

あいつは嘘をつく前に

絶対間があくんだ


嘘をついたことより

その理由が聞きたいんだ

恋人である俺に

あんな小さな事で嘘をつく理由が


どうしても知りたい




それから、「ごめん」って

一言謝りたい







少しためらったけど

俺は今まで一度も使ったことはない

朝日の部屋の合鍵を鍵穴にさしこんだ



これは数ヶ月前

あいつが仕事仲間と飲んで酔っ払って

自分の部屋の鍵を店になくして

俺に助けを求めてきた夜



あの次の日に心配になって作らせたものだった



それは別に

あいつが家に入れない事を心配して作ったわけではなく

(それもそれで心配だけど)

あいつがもし俺以外の男を頼ったら

多分俺はムカついてしょうがないからだ



あいつが頼る男は俺じゃなきゃ

嫌だからだ




そんな昔のことを思い出しながら

玄関を開けたら

あいつの仕事用の靴も、普段の靴も

両方キレイに並んでいた


やっぱり、あいつはここにいた

嘘をつかれた事はこれで確実となり

心が少し騒いだ





「・・・朝日?」

声に出して呼んでみる

返事はなかった


部屋の奥に人の気配は感じる

玄関から見える窓のカーテンも開いてる



さっきまでとは比べものにならないほどの

不安が押し寄せる



こんなさしせまった状況になってから

朝日がどれほど自分にとって大切な存在か

よくわかる

無意識に奥歯をかみしめた


「上がるぞ。」

振り切るように靴を脱いで部屋に上がった



朝日の家に来ること自体

ひさしぶりなような気がして

余計にさっきの自分の心ない台詞が頭をよぎる



朝日の姿が見えなくて

でも早く謝りたくて

気持ちは焦るばかりだ



キッチンにとりあえず入ると


「ぅわ・・・」



思わず声をあげる


何故ならその見慣れたキッチンは

空き巣にでも入られたのかと思う程

めちゃめちゃになってたから



テーブルの上は白い粉が散らばって

銀色のボールが何個も転がり


きわめつけはシンクの中

"茶色いもの"が散乱してめちゃくちゃ汚い







・・・何があったんだあいつ



俺にキレて暴れたのか?

まさかな





「?」

気付くとその白い粉が

床に点々と跡をつけて寝室へと続いている



ちょっとしたホラー映画でも見ている気分に陥りながら

それでも朝日に会いたくて



寝室に入ることを

1〜2分突っ立ったままで迷って

俺はついに寝室のドアに手をかけた




「・・・朝日?」


ベッドには朝日が寝ている

彼女の姿を見られただけで

俺は全身から力が抜けていくのを感じてた



「朝日、起きろよ・・・!」

呼びかけて

俺は口をとっさに閉じた


朝日は何故かエプロン姿

ベッドで涙を流して眠っていた

片手には携帯


俺との電話のあとに

眠ってしまったようだった




俺は深い溜息をついて


唇をかみしめた



"あーもー別にいいよ。しゃべる気失せた。切るわ。"



何てこと、言ったんだろう俺


俺は朝日を起こすのをやめて

寝室のドアを閉めた











散らかったキッチン

俺はもう一度長い溜息をついて

突っ立ったままキッチンを眺めていた








「・・・?」



さっきは気付かなかったけれど

そのキッチンは覚えのある匂いでいっぱいだった

























「チョコレート・・・!」







俺はとっさに焦る気持ちを押さえつつ

携帯を取り出して

数日前の朝日に送った送信メールを読み返す





『14日なんか会えるわけないじゃん。
 その前なら10日だけかな。    』





















朝日の部屋のカレンダー



2月14日には悲しげに赤いペンで×がうたれて

2月10日には大きく○印がうたれている







愛しくて



ついその○印に触れてみる











「・・・バカだな。」



お前が料理苦手なことくらい知ってんだよ

4日早まってチョコ作るのに焦ってたなんて

何でそれくらい素直に言えねぇんだよ



くそまずいチョコ渡されたって

お前が作ったもんなら何だって食ってやる


そんな事で嫌いになるわけねぇだろ















時計を見ると



もう仕事を抜けてから20分がたっている




やっぱり俺は不器用だから

数分でお前を起こして謝るなんて無理な話



だからこのまま帰るけど



お前が起きたらもう泣かないように


とびきりの笑顔になれるようなメールを


お前が寝ながら握る携帯に託しておこう

















『さっきはごめん。
 14日、絶対会いに行く。  』
























---------------------------------------------------------

     Thank you!!

12000hit踏んで下さったまいさん、お待たせしました!!
「てっちゃんがお相手で、不器用な恋人同士」というリクでした。
バレンタインも近いという事で、バレンタインネタで書かせて頂きました。
いかがでしょうか?久々のリク作品。
不器用な恋人同士って、こんな感じなのかな?
確か一年前のバレンタインは北山さんのリク作品で書かせて頂いた覚えがあります。
時間の流れを感じますね・・・。
大変時間かかっちゃって申し訳ないです。
もう忘れられちゃってるかもしれないですけど、読んで下さった方は
ぜひ感想くださると嬉しいです^^



もどる。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送