鍵の音
















ものには潮時というものがある




もう手立てがなくて、後にも先にも行けなくて









例えば
まだこちらが相手をどうしようもなく必要としていても








例えば
傍目からは何も問題なさそうな二人でも








例えばお互いがまだ、


どうしようもなく愛し合っていたとしても・・・












潮時というのは、突如、容赦なく


やってくるのだ













「・・・もう限界。」


手の中で、チャリンと金属音がする


普段独り言なんて言わない方なのに、つい呟いている







だって限界なんだもの







この暖かい部屋にいるのは、鳥肌がたつくらい苦しいの




もう荷物はまとめてある


あとは




この手の中の冷たい金属を、別れの言葉とともに





あなたに手渡すだけ・・・








つらい    つらいよ。


くるしい・・・





あなたを・・・別れを待つのはこんなにも苦しい事なんだね


こんな思いをするくらいなら、突然に別れを告げられた方が


いくらかマシだわ・・・











もう出よう



この暖かい部屋を出よう


外であなたを待とう





チャリン

















寒い舗道を歩いてマンションまで到着すると


何故か美沙紀がマンション下のエントランスの石垣に座っていた




「美沙紀!」


名を呼ぶと彼女は少しためらってからこちらを振り返る





「なんで座ってんの、入ればいいじゃん。あ、鍵忘れたのか?」

「・・・」







俺がうながしても一向に美沙紀は立ち上がらない






表情は硬くこわばっている


それは、寒さのせいだと思っていた





「・・・おまえ、何その荷物?」


気付くと美沙紀の足元には、大きなバッグが置かれていた





ぞくりと嫌な寒気がしたけれど、それも




寒さのせいだと思っていた・・・のに






「てつや、手、出して・・・」




美沙紀は消えそうな声で呟く







俺は最初手の平を下に向けて差し出したが

美沙紀が少し困った顔をしたのでひっくり返した





すると・・・











チャリン








手に乗せられたのは、俺達の部屋の鍵


美沙紀のいつも持っているヤツだ




「・・・何これ?」


「鍵・・・」


「いや、そりゃ判るって。何でこれをくれるのかって聞いてんの。」



「・・・・」





黙るな





黙るなよ





何でふたりで暮らしてる部屋の鍵を手渡されなきゃなんねぇのって・・・




聞いてんのに黙ったままだ








嫌な汗が出る


俺の中の危険を察知するアンテナが激しく反応しているのが判る


明らかに警告してやがる










「美沙紀!何か言えよ、何だよコレ?」

「・・・っ」

「言わなきゃわかんねえだろう。」

「・・・」

「なんか・・・よくわかんねえんだけど。」

「私は・・・」

「・・・わりぃ、聞こえない。」

「これ以上、あなたの愛し方が判らない・・・」

「・・・・・・・・・なんだって?」

「こんなにてつやが好きなのに・・・なのにこれ以上無理なの・・」


「わかんねえよ!言ってる意味が!」

心臓が口から出るんじゃないかって程、怒鳴りつける


「あなたを好きでいることが・・・限界なの。」

「・・・・・・限界?」





手の中で冷たい鍵が揺れる





「好きは増える一方なのに・・・てつやといられる時間は減るばかり。」








・・・・・・・!







頭を一撃されるような言葉




ずっと、一番目前にありながら、後ろ手にして隠してきた、ことだった



















ポツ・・・・・・ポツ、ポツ・・・ポツ








何てタイミングのいい天候


ものすげぇ演出効果だ




クソッ うんざりだ!!








「美沙紀、雨だ。とりあえず、中、入ろう。」


「いやっ・・・」




美沙紀は怯えたような口調で俺の手を振り払う











「あの部屋は・・・暖かいわ。」


「・・・?」


「暖かいのに、いつ目覚めても、あなたはいない。」





こわばった表情は崩さずに、声は震えてた








「・・・・」

























「・・・・・・・・・もう、涙も出ない。」











このせりふは、彼女があの俺達「ふたり」の部屋で


「ひとり」で泣いていた事を意味しているんだろう








うそだろ・・・ずっと、気付かなかったなんて
















「・・・・・・・」




「・・・・・・・・・・・ら」











最後のせりふは雨音にかき消されて聞こえなかったのに


それが『さよなら』と言った事がハッキリと判ってしまうのは、きっと


俺達があまりに長く一緒にい過ぎたせいだろう














美沙紀がゆっくりいなくなっても、





雨が俺の首筋を冷ややかに濡らしても





俺はそこに立ったままだった











ほんの数分前まで、そこに美沙紀が座っていた


という暖かさをかみしめて











いつもでも   いつまでも



そこに美沙紀の影を探して





すがりつきたい想いを必死にこらえながら





やっとのことで2本の足で、立っていた











手の中の鍵が、雨水に濡れて


じょり、と、鈍くて低い音をたてて


それは、かつて二人が使っていた頃の軽やかな音とは


明らかに違っていた











美沙紀の最後の言葉くらい聞き返してでも


耳に焼き付けとくんだったな・・・














俺は何も言えなかった      何も






名を呼ぶことすら・・・・











「み、さき・・・・」








最後になるであろう俺の口から出たその名は、









今、雨にかき消されて











どこかに消えた












○●Thank you very much!!●○



1515hit踏んでくださった哲娘さまへ!
お待たせいたしました!「切ない系でてっちゃんとの別れ」というリクで書かせていただきましたよ〜。
私が話を考えつくのは、「どうしよう」って考えている時の状況がそのまま使われるんですよ。
つまりこれを考えてるときは、私は傘を忘れて雨にうたれていました!(笑)
「これいい!」っててっちゃんに雨にうたれていただきました。
別れの一番の原因は皮肉にもお互いを必要とする想いだけだった、という。
そんな感じに考えて書いたつもりです。いかがですか??哲娘さん!


テツマニの哲娘さんへ>>

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