Last Serenade.













聴こえてきたのは


キレイな鳥の歌声








ではなく、





彼の合図














ガラガラ!







部屋の窓を開け放つと


我が家の玄関先の灯りの下に


いつもの彼が立っている








「こんばんわ、お嬢さま。」


「クスクス..ふざけないでょ。」


「おぉ。」


「今日は早いのね。」


「雨降ったからよ、早く切り上げてきた。すぐやんじまったけど。」


「今日はお客さんは?」


「まぁまぁかな。」














2階の小窓から


ぐっと身を乗り出して彼の声に


耳を傾ける





時刻はpm9:46


いつもなら10時に仕事を終わらせて


私の元に走ってくれる王子様





彼のお仕事は


大切な仲間たちと


たくさんの人に歌を歌って聴かせること














ただし、マイクもステージも何もない


寒く冷たいアスファルトの上で…








「今日は何を歌った?」


「Ridin'High」


「あの曲だね。」


「あぁ、お前が俺に惚れた曲だろ。」


「…もぅ。」


、お前携帯買ったかよ?」


「無理よ、ママが許してくれないの。」


「どういうウチだよ一体…携帯も持たずによく生きてんなお前。」


「…一人になる事なんてないからよ。必要ないんですって。」


「お前んちくらいなら身代金目的で狙われて危ねぇんじゃねぇの?一人娘がよ。」


「…そうなのかしら。」


「そういうもんだぜ。」


「心配?」


「当たり前だろ。それに携帯がありゃこうしてわざわざ来なくてもいいんだよ。」


「会いたくないの?」


「そういう事じゃなくて…」





呆れて苦笑い


下を向いてクックッと笑うあなた











「…会いたいな。」


「会ってるじゃん。」


「もっと近くで…」


「…無理だろ。」





だよね




















ケホ..





下で小さく彼の咳が聞こえた





「てっちゃん、風邪?」


「大した事ねぇよ、もう入れよ。お前が風邪ひくぞ。」


「もう少し…」


「親父さんが帰ってくるだろ。俺もう殴られんのやだよ。」


「…おやすみ、なさい。」


「おやすみ。」














それだけ言うと


彼は背を向けて暗がりに消えて行く








もう何度





あの寂しい背中を


見送ったかな




















ちゃん、何を一人で喋っているの?」


「!!ママ、何でもないわ。」






ドキリとして窓を閉める



部屋の外のママの気配が消えるのを察して


ゆっくりとカーテンも閉めた











ごめんね、てっちゃん‥





















































『海へと車走らせる





スピードをあげる』











始めてあなたの曲を聴いた






私にとって


あまりに魅力的な曲





私をどこかに


連れていって‥







私を連れ出せるのは


あなたしかいないのに…




































































俺たち二人は




何があっても離れない








あの日俺の歌を聴いて


世界を見たお前








いつか俺が連れていってやるから







どんなに時間がかかったとしても



いつかは必ず叶う願いだと


信じて疑わなかったのに…
























































今日も5人で歌おうと


いつもの場所に集合した時の事だった





「村上、ちょっといいか?」


「何だよ黒沢。」


「ちょっとこっち来いよ。」


「何だよ?」








「…お前佐藤って家の娘と会ってるって本当か?」


「何で知ってんのお前。」


「何で知ってんのじゃないよお前!」


「何怒ってんだよ?」


「じゃあさ、お前さ、ほら、デモテープ作ってさ、レコード会社持ってくって話 は嘘だったのか?」


「あ!?嘘じゃねぇよ、何でそうなるんだよ!?何が言いてぇの?」


「お前何にも判ってないんだな…」


「………何?」



























































次の日





てっちゃんはウチには来なかった





少し不安になったけど


てっちゃんのあの曲を思い出して


私は何とか眠りについた











そんな夜が




残酷にも5日間続いた





























涙がこぼれたのは



7日目の昼間だった








冷たいアスファルトで歌う彼らだから


もちろんCDなんて出ていない








彼らの


てっちゃんの歌を聴くには


外へ出なければ聴くことはできない、、、

















TVでたくさんの照明を浴びて


力いっぱいに歌っているミュージシャンを見る








てっちゃんの


いつかこんな姿を見てみたい











夢は夢として・・・





でも絶対に夢で終わらせない。











てっちゃんはそう言ってた





今、夢を叶えている最中かもしれない








その世界の事はわからないけれど




てっちゃんの夢が叶うなら








私にできる事、しよう

















今、祈る事しかできないけれど





彼の夢が、叶うなら・・・









































10日ぶりの合図を鳴らす








少しして、彼女が窓を開けた


10時をまわっているので暗くてよく見えないけど





泣いていたようにも見える・・























ズキン、、





胸が痛んだけれど


俺は俺に気付かないフリをする











「てっちゃん・・・何処に行ってたの?」


「・・・わりぃ。最近違う場所で歌ってたんだ。」


「違う場所?」


「そ、ちょっといつもより狭いトコ。」


「・・・遠い所?」


「・・・ま、ある意味遠いかな。」


「え?」


「レコード会社にさ、話持ってったんだ。1曲でいいから聴いてくれませんかって。」


「本当!!?それで?!」


「ん、聴いてもらえてさ。まだまだ話が大きくなるようなトコでは聴いてもらってねぇけど。」


「そうなんだ。・・・うまくいきそう!?」


「一応さ、聴いてくれた人は、好感触って感じ。後は愛想だね。」


「そんな簡単にいくの?」


「うそうそ。愛想なんかでうまくいったらとっくにデビューしてる。」


「だよね(笑)」








いつもより暗い色のサングラスをしているせいか



てっちゃんの気持ちが


うまく読み取れない・・・







噛み合わない沈黙が





やたらと続く・・・



































「私ね、祈ってたよ。ずっと。」


「何を?」


「てっちゃんの夢が叶いますようにって。会えなくて寂しかったけど・・・夢に向かってたんなら安心した!」


「・・・ん。」


「うまくいくといいね。」


「・・・ん。」


「私ね!てっちゃんの夢叶うなら、何だってするよ!てっちゃんの夢は私の夢だもの。」


「・・・・」


「私にできる事なんて何にもないけどさ、もしてっちゃんがデビューしたら私ファン第一号にしてね!」


「ハハ・・ファンに一号も二号もねぇって。バカだな、お前・・」


「・・・ハハ、そっか。」




















この沈黙、どうすんだよ





どうすんだよ、俺











言うつもりで来たんだろ?




きっぱり言うつもりで、




今夜は来たんだろ?


























ここで言わなきゃ





お前の夢はそこで終わっちまうぞ?


























「てっちゃ・・・」


「なぁ、!」


「なに?」


「俺の夢さ、叶うならさ、その・・・何でもしてくれるって?」


「うん!もちろん!!あ、けど、レコード会社説得しろって言っても無理だよ?」


「んな事頼むかよ。大体お前にそんな事任せたら不安でしょうがねぇよ。」


「ひどぉい。」


「・・・ハハ。・・・簡単な事だよ、もっと。ずっと・・・」


「なぁに?何でも言って!」






































言え・・・言えよ!








早く言っちまえ!!!




































































「・・・・」








「・・・?」





























「俺のこと、忘れてくれ。」



























































「・・・え。」





「忘れろ。俺のことは。もうここには来ない。」





「・・・てっちゃん?」





「この街ではもう歌わねぇし、お前の好きなあの曲も歌わねぇ!」











自分でも


声が掠れたのがわかった














「てっちゃん・・・どうして?意味わかんない。」





「お前と会うと、俺の夢は終わる。」





「・・・」





「・・・お前がお前であるために、お前とは会えない。」





「・・・え?」








思い切って俺は


に顔を上げた




















「お前の親父さんさ・・・俺ら5人の将来ぶっ潰すのなんて、簡単な事なんだってさ。」







の心がやぶれる音が




聞こえるかと思った

















「・・・・こないだみたいに、殴られるだけならさ」






「殴られるだけなら、何発だって殴られてやるよ。」








「けど、・・・俺だけの夢じゃねぇんだよな。」






































もう二度と、







の顔は見れないと思った







































一度下を向いたら




引力に逆らえない涙が








次々に冷たいアスファルトに落ちたから



































このままの顔が見れないままに





どこか暗い森にでも消え失せちまいたかった














約束の一個も守れない男





冷たいアスファルトに伸びる俺の影


























「・・・・てっちゃん。」





「・・・・」





「てっちゃん泣かないで。」





「・・・・」





「ねぇ、てっちゃん。お願いがあるの。」





「・・・?」








俺は上は向かずに、少しだけ顔を上げた








「最後に、本当に最後に、少しだけ、歌を歌ってほしい・・・。」




























の涙に耐えた声





きっと最後になるであろうの部屋の窓を








俺はサングラスを外して見上げた






俺よりもまっすぐこちらを見た














まるで女神みたいに俺を見下ろしていた


































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I'm with you どんな時も


I'm with you  どこにいても


今以上 そばにいるよ


It's my promise  だからこのまま





I'm with you  ためらわないで


この広い世界中で


たった一人の  君を生きて





keep smilin' it's just your promise





I'm with you It's just my promise...
























































































































「・・・何ていう、曲?」





「promise.レコード会社に持ってった曲。」





「素敵な曲ね。・・・本当に。」





























いつかお前に





本当に果たせる約束をしにくるから




















それが今の





こんな俺ができる








ちっぽけな約束だから・・・


























最後になんてしたくない





最後になんてしてたまるかよ・・・














最後じゃないけど





最後の











君に





Last Serenade.































○●Thank you very much!!●○


3400hit踏んでくださったさまへ!
大変たいへんお待たせしました!!!
の、てっちゃんと現代版ロミジュリ!というリクでした。
はじめは結構悩んだんですが、書き始めたら楽しかった!
なかなか問題作になりましたが、いかがでしょうか??
細かい設定は露呈させちゃうと逆に現実味がなくなる気がして
何で反対されてるか、とかいう部分は想像して下さいって感じです。
そういうの文で説明するの苦手なんです・・・。
感想いただけると嬉しいです☆


へ>>青也より。

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