弱く、弱く、熱く













返事がこない










『明日オフだったよね?家行っていい?』










昨夜いつも通りのメールをしたのに


一日経っても返事はこない












寝てる?





寝てるかもしれない









・・・けど、何か胸騒ぎ








胸騒ぎって、得体が知れなければ知れないほど





強くなって、大きくなる











「・・・てつ」











思わず声がもれたのに気付いて


あわてて口をつぐむ








・・・いやだわ




こんな天気のいい朝に部屋にこもって


頭で考えてるから余計心配になるのよ











てつやのところに、行こう





結局、会えないから心配なんだ








会えばいいんだ











アイタイ、、、

















ぴんぽーん。




・・・やっぱり返事はない


玄関に電気がつけたままだから


家にいることは間違いないのに


でも、朝まで玄関の電気をつけたままにしていた事なんて


ないのに、おかしいな・・・





カチ・・・





「あれ?」




ドアに手をかけたら、扉は簡単に開いてしまった


鍵が空いてる・・・





玄関先にはてつやの靴が脱ぎ散らかしてある


部屋に上がるとキッチンの白熱灯の電気だけが点いていて


カーテンは閉まったまま





どうやら昨夜帰ったままみたいだ





何故か部屋に入ってすぐの床に


ジャケットが脱ぎ捨ててあった





・・・いくらてつやでも、こんな所に服は脱がない








「なにこれ・・・」




ひとりごとを呟きながら


行き着く先は寝室のみ





「寝てるんだ・・・」





寝室をのぞくと、ベッドサイドのスタンドだけが


弱弱しく灯されていた





「てつ。」


「・・・」





返事がない


爆睡なのかなぁ・・・





「てつ?ごめん、勝手に上がって。玄関の鍵空いてたから・・・」


家に勝手に上がりこんでしまったから


寝室までは入るのをためらって


入り口でベッドに話し掛ける





「もうお昼になっちゃうよ。」


・・・・・・・・


「昨日は何時に帰ったの?」


・・・・・・・・


「てつやぁ・・・」








ひたすら寝続けるてつや


寝息すら聞こえてこない




少し、さっきの胸騒ぎを思い出して


寝室に足を踏み入れる





この部屋は、ある目的以外に入った事がない








「入るよ・・・?」








近づくと、てつやのふわふわの頭が見えた


それが見えて少し安心する





けど、やっぱり動かない








こつん、、、





ベッドに近づいた時、何かが足の指先に触れる


「・・・?」


見てみるとベッドの下から出てきたのは





「体温計だ・・・」





それはてつやの家にいつもある電子体温計


なにげなく電子表示に目をやって


私は言葉を失った








      ・・・・・38.7℃・・・











「てつや!?顔、見せて!顔!!」





私は反応を示さないてつやの肩をつかんで


こちらに反転させる





「すごい汗・・・!ちょっとてつや!何で上だけ服着てないのよ!?」


「・・・ん、あちぃ・・・」


「暑いじゃなくて!熱があるのよ、早く服着て!脱いだ服はどこにあるの?」


「・・・」





てつやは目を閉じたまま床を指さす


そこには無造作に脱ぎ捨てられたシャツ





・・・だめだ


この服はもう汗びっしょりで逆に冷えちゃう





「服持ってくるからね?タンス開けるよ?」


「・・・ん」











信じられない・・・





あんなに熱があったのに昨日も遅くまで仕事してたなんて・・・








昨夜はすごく冷えたし、帰りは電車で帰るって言ってた




玄関や部屋の様子からして家に着く前からきっとあんな調子だったんだ







「・・・・・」







ひとり帰宅してベッドに倒れこむてつやを思うと


胸がしめつけられる







どうしてあんなになるまで頑張るのよ











それより、自分がもっと早く気付いてかけつけていれば・・・







唇をかみしめて、服を持って寝室に戻る








てつやは目を開けていたけれど、今度は首まで布団を巻きつけて


とても寒そうにしていた





苦しそうに眉間にしわを寄せる




「寒い?」


「ん・・・」


「半裸は寒いよ。さ、服着よ?」


「なぁ。」


「ん?」


「昨日、メール、返せなくてわりぃ・・・ほとんど意識なくてさ・・・」


「いいよ、そんなの。ほら、服着て。」


「・・・ありがと。」





てつやの口からありがとうを聞いたのは


どれだけぶりだろう





てつやは布団を巻きつけたまま半身を起こして服を受け取る




まだぼーっとするらしく、袖を通すにも少してこずっていた








「いつから調子悪いの?」


「・・・わかんね。」


首をかしげるてつや


「仕事抜ければよかったのに。」


「それができねぇからこうなったの。」


「そっか・・・」







服を着たてつやは、再び布団の中へ・・・





「・・・」


「・・・」





一度も私を見ようとはしなかった








「何か食べた?」


「なぁ」





私の台詞をさえぎるように呼びかける





「なに?」


「・・・帰れ。」


「・・・え?」


「帰れよ・・・」







てつやが苦しそうに目を閉じて


低い声でうなるように言う





・・・・どうして突然そんなこと








「ダメよ。そんな状態でひとりにさせられるわけな・・・」


「帰れ!」





絞り出すようなてつやの声が部屋に響く








どうして帰れなんて言うんだろう





少し悲しくなって、少しだけ、鼻の奥に痛みを感じた








その時、再びてつやが弱く呟いた














「・・・絶対伝染るよ、お前。」


「え・・・?」








今、なんて・・・?








うつるから?





うつるから、帰れなんて・・・











「・・・ばか。人の心配してないで、早く寝なさいよ。」





あなたの風邪なら、うつったって構わない




・・・・・なんて





「何か食べたい物、ある?」





あなたのことを、いつも見ててあげるから





「・・・ん、冷たいもん。」





安心して、眠ってください





「わかった。買ってくるね。」





立ち上がって、部屋を出ようとすると





「麻衣子!!」





うしろからいつもより、少し弱く呼び止められた





「・・・なに?」


「・・・さっきの、帰れって・・・あの、帰れって意味じゃなくてさ・・・」


「わかってるよ。」





てつやはもう一度ゆっくり息を吐いて


そして言った





「やっぱ、食うもんはいいからさ・・・」


「え?」


「ここ。居て。」








一瞬こどものような顔になる




昨夜はどんなに心細かったことだろうと




私の胸はまた静かにしめつけられる







私はベッドにそばに座りなおして


小さめの声で言う





「てつや、ごめんね。」


「・・・ぁ?」


「気付いてあげられなくて。」


「・・・何、言ってんだよ。」





てつやは熱い息をもらして、へへ、と笑う





「・・・来てくれて、ありがとな。すげぇ、助かったわ・・・」


「ん・・・」





安心しきったてつやの顔が嬉しくて、つい涙が出そうになる








「麻衣子、今日、夜までいてくんないか。」




てつや・・・当たり前じゃない




「うん。ちゃんといるよ。」


「・・・ん。」








てつやがゆっくり目を閉じる








布団の中からだらりと落ちたてつやの手を握ったら




てつやは弱弱しく、いつもの笑みを浮かべる











「あ・・・治るかも・・・」








てつやの大きな手が、弱く弱く、





けれど、とても熱く、








私の手を握り返した

















○●Thank you very much!!●○



3700hit踏んでくださったしずさまへ!
お待たせしました!しずさんへ、「てっちゃんの看病」というオイシイ(笑)リクでしたv
無駄に長い気がするのは、気のせいですので、気にしないでくださいね(汗
かなりヤル気になってしまったリクのひとつです。少し弱すぎたかな、とも思ったんですが。
書いてて楽しかったです!!
布団の中からだらりと落ちたてっちゃんの手、というのがお気に入りですv
ね、しずさん♪(笑)いかがでしょうか??


テツマニのしずさんへ>>

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