小さなピンクの薔薇







「ゴスペラーズさん、花輪こちらに並べておきますね〜。」

「はいどうも〜。」





正午の某有名番組に出演した際

僕らにはたくさんの花輪が届き

それはありがたいことにロビーにまで溢れかえった







「しっかしすげぇ量だな。」

「ありがたいねぇ。」



5人でぐるりと差出人をチェックしつつ雑談を交わす









・・・と













そんな中

花輪の中から落ちたのか

たった一輪のピンクのバラの花が

僕の足元に寂しく落ちていた



















「・・・・・・」



















僕はその時

鳥肌がたつような感覚におそわれて

そのピンクのバラを見詰めていた




















目が離せない





















そうだ



ピンクのバラ・・・







バラの花を見ると思い出すことがあるんだ







それも


真っ赤なバラとかじゃなく



花束のバラとかでもなく



この僕の足元に今落ちているような


「たった一本のピンクのバラ」

を見ると・・・・









あれは

もう


10年以上も、前の話だ・・・
























「安岡くん、音楽好きなんだって??」



「!?」







突然話し掛けてきたのは、クラスの女の子

中学最後に初めて同じクラスになって

名前も知らない子だった




「わたし、豊田瑞穂っていうの、ヨロシク。ねぇ、オススメの曲なにか教えてよ!」









どこからか僕が音楽好きだと聞きつけ

突然そんなことを頼みに来たようだった








「うん、いいよ。」







その時の僕は

軽い気持ちで返事をしたけど



だけど、僕は彼女にマジにはまっていったんだ



当時の言葉を借りれば







ぞっこん。







ってやつだった

















僕がカセットに曲を録音して持ってくるたびに

「家まで待てない」

と言っては放課後の音楽準備室に忍び込んで

学校の備品であるラジカセで音楽を聴いた



それはいつも『狭い準備室の棚の影』

と決まっていた










そこにはいつも、見張りと称して僕もつきそった

彼女と秘密を共有するのが

ただ嬉しかっただけだった





『狭い準備室の棚の影』。

小さめのボリューム。

2人で音楽を聴くその放課後の時間は

僕にとって最高に幸せだった















2人に転機が訪れたのは


そんなことをし始めて2ヶ月、11月の頃







同じように『準備室の棚の影』で

カセットを再生する



「あ!これさ、あの曲に似てない??」

「ん?どの曲?」

「ホラ!こないだ優くんが月曜日に持って来てくれたやつ!」

「え〜。どれだっけ??」

「なんだっけタイトル・・・?え〜っと、なんか凄く甘い曲でさ!」

「甘い曲・・・」

「ん〜〜と・・・あ!そうだ!『Kiss』!!!」













彼女のクセ



身を乗り出して



彼女はそのタイトルを叫んだ





ぐっと近づいた彼女の瞳が



僕の瞳とかち合う





その言葉
(タイトル)


一瞬にして2人の距離を縮めた気がした











「・・・・・」











「・・・・・」













『狭い準備室の棚の影』





小さなボリュームの音楽が流れる中





僕らはどちらからともなく





甘く、優しい






キスを交わした

















今思えば





確かにあれは「初恋」だった











僕はその翌日たまたま担任に呼び出されて

準備室に行けなかった



きっと彼女は待っていただろうけれど・・・





「失礼します。先生、何ですか??」

「おぉ、安岡。ちょっとこっちに来い。」

「はぁ。」

「お前は確か早稲田実業が第一志望だったよな。」

「ハイ。そのつもりです。」

「正直、今のお前の成績じゃ少し無理がある。」

「・・・え。けど先生、1学期の面談では大丈夫だって・・・」

「2学期に入ってからお前、成績落ち気味なんだよ。・・・何かあったのか?
部活動も引退して、本当はもっと上がってもいいとは思ったんだが。」

「・・・。はい。」

「・・・凄く惜しいんだぞ。気を抜くなよ。」

「はい・・・。判りました。」











どうしよう・・・







どうしよう・・・









明らかに放課後の『音楽鑑賞』は

僕の勉強の妨げになっている



どうしたら

いいんだろう??






当時の僕は

現実を見ずに好きな子を選ぶほど

子供でもなかったし




両方を手に入れてやろうなどという

強欲な大人にもなりきれていなかった












僕は2度と、 準備室には 行かなくなった















彼女と目も合わせずに月日は流れて





それでもいつも教室のどこかで

僕を見つめてる瑞穂の存在が

きっといつも僕の心の中にいた







それを知りながらも

ずっと背を向け続けてきた報いが





3月、卒業式の日に





やってきてしまった











「瑞穂、ちょっといい?」




実に4ヶ月ぶりくらいにその名を呼ぶ


彼女にキスをしたのが

数日前のことのように思えた









瑞穂は

卒業生に一輪ずつ配られた

ピンクのバラを片手に

僕の後ろを大人しくついてきた









「瑞穂。」







「・・・・」

「ずっと、何も言わなくてごめん。」





「準備室にも行かなくなって、自分勝手で本当にごめん。」

「・・・」




彼女は俯いたまま

バラの花を指先でもてあそんでいる







「・・・怒ってる、よね?」

「・・・」

「俺、さ、高校受かったんだ。早稲田実業。瑞穂も私立受かったんだろ?
おめでとう!!」











その時






彼女の指先がぴたりと止まった










「早稲田実業・・・?東京の?」





「?うん。あれ・・・言わなかったっけ・・・」









瑞穂は「うん」とも「ううん」ともとれない風に

首をかしげた





そして一言呟いた














「・・・なんで、キスしたんだろうね。」








「・・・え」








「わたしたち・・・」

















ザァァッ







風が吹いた












その時、瞬間的に彼女の頬に











一筋の涙がつたった








「!!??」








彼女が泣いた


彼女が泣いた





唇が震えた


心が震えた











「みず・・・っ」








一歩近づいたところで











ぱしっ











瑞穂は手に持っていたピンクのバラを




突然僕に向かって投げつけた






腹の辺りに当たったバラは



ひらひら



ぽとり



と、僕の足元に墜落する








「・・・・・・っ」






瑞穂は一瞬悲しみに顔を歪めたかと思うと

あっという間にその場を走り去った










僕はただ

学ランの袖の先を握りしめたまま



足元に落ちた

たった一本のバラの花を

ただ呆然と

見詰めていた




バラはひらひらと

いつまでも

風に漂っていた








彼女のその時の行為は





幼い僕に対する





幼い彼女にとっての





必死の抗議だったように思う










あのキスは、彼女が涙するには充分なほど

ふたりを近づけたけど











お互いが

「行かないで」と

すがりつくには

僕らは子供すぎた





















きっと今なら




もう少しうまく




君を愛せるのに・・・



























「安岡!何突っ立ってんだ、行くぞ〜。」

「あ、ごめんごめん。」



4人の後について歩きながら

僕はもう一度振り返る





床には

あの頃のように

ピンクのバラが一輪

落ちている
































瑞穂














元気ですか?















今、どうしてますか?















愛すべき人はいますか?
















たくさん、たくさん











恋をして












真っ赤な



バラの花束なんかを






とびっきり素敵な人から


プレゼントされるような







そんな素敵な女性に




なってください。
























○●Thank you very much!!●○



800hit踏んでくださった豊田瑞穂さまへ!
リクエストはヤスと初恋の話vでしたが・・・
いかがでしょうか???
わたしは本当に話が長くなる傾向があります(汗)
今回もかなり不安ですが、初恋だからと言ってあんまり若返らせたくない
というのが実はあったんです。
本当の初恋とかを想像すると多分小学生ヤスになっちゃうし・・・。
一番甘酸っぱい年代(笑)の中学生バージョンでお楽しみいただきました(笑)
い、いかがです??瑞穂??((ドキドキ >_<;



ヤンマニの豊田瑞穂さんへ>>

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