ひとりぼっちの彼



















「…はぁ」





あら溜息

あなたは薄明かりのカウンターで

グラスを傾けて眺めながら

軽い溜息








「珍しいね、溜息なんて。」

「んん、ちょっと。」

「何かあったの?」

「ん、まぁ。ちょっと。」





いいのよ

言いたくないなら聞かないわ

あなたは言いたい時はちゃんと自分で言う人だものね

私はいつも待っていて

あなたが話し始めたら

黙って聞くだけ

それだけの存在だからね








「今日さ…」






あら、今日は話したい日なのね






「うん。」

「断ったんだ。例の子に…」

「あぁ、この間あなたに好きですって言いに来たっていう子?」

「うん、そう。」

「断ったんだ?」

「うん。」

「可愛い子だったんじゃなかった?」

「んん、そういう問題じゃないから。」

「そうね。」

「あんまり待たせるのも、と思って。きっぱりと。」

「ごめん、て?」

「そう。」














半分酔いがまわっているのか

そこまで言ってガクンと首を垂らすあなた

これやる時は大体自分を責めてる時ね





「…泣いたの?」





しばらくして、首を落としたまま



あなたはウン、と頷いた














「…そっか。」

「…」

「泣かしちゃったか。」

「…」








ちょっと?

何処の誰か知らないけど、フラれた貴女?

こんなに彼は落ち込んでるのよ

もしかしたら貴女以上に落ち込んでるかもしれないわよ

貴女が「もう大丈夫です」って顔してなきゃ

貴女の大好きな北山陽一は落ち込んだままじゃないよ




好きなら、泣いてないで

この人が自分を責めないようなフラれ方しなさいよね




























なんて





こんな彼の姿を見るのは私だけだから

私だけの勝手な言い分よね

フッたのはこの人なのに

何でこの人が落ち込んでるのよ























全く





しょうがないな

















「ホラ!アンタが落ち込んでどうすんのよ!」

「…別に落ち込んでない。」

「あんたがフッたのが悪いんでしょ?そんなに自分を責めるならつきあってあげればいいじゃないの。」

「…だめだよ。あの子とつきあう気はない、から。」

「だったらもう考えないの!さぁさ、飲んで飲んで!」

「声デカイよお前…。」

「何よ、お前なんて他の女の子には言わないくせに。」

「…飲むよ。言われなくても。」

















やっとあなたの口元に笑みがもれる



よかった

あなたにはやっぱりそのちょっと嫌味な含み笑いが似合うんだから









ぐいってその大きな喉仏がひとうねりして

強いお酒に一瞬歪むあなたの顔

グラスをカウンターに置いて

次に私を振り返ったときには

いつものあなたの顔






「まぁ、そっか。俺が落ち込んでもしょうがないか。」







この図々しいほどの物わかりのよさ











あなたなら、大丈夫ね





















いつか私があなたにフラれる日がきて



私があなたの前で涙を流して



あなたが自分を責めても



そうやって少しだけ飲んで



すぐに忘れちゃってちょうだいね



























ただし、その時はきっと




私は隣にいてあげられないから




一人ぼっちで飲むんだよ


























「乾杯しよっか。」

「何に?」

「ん?…ひとりぼっちのあなたに乾杯。」

「うるさいよ。」

「ホラ、乾杯。」

「…乾杯。」



















カチン





















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