泣くな

























「何してるの?」



顔をあげると、その人はいた











私は彼のマンションの前で

いつ帰ってくるかもわからない彼を

下を向いて待ち続けた



不規則な仕事だから仕方ない

何時間、何日待たされたって

私は文句は言えない







・・・というより

文句を言える立場ではなくて



せめて対等な友達関係ならば

「遅いよ」くらい言えたかも







私がここに着いて6時間で彼が現れたのは


ほとんど奇跡にちかかったかもしれない













ちゃんだよね?」



暗闇からぬけだすように

彼がわたしに歩み寄る









彼の丁寧な言葉使いも

気をつかった表情も

私に触れない一定距離も

彼のやさしさも・・・



いまは大嫌い













「陽一さんのこと待ってたの。」

「僕を?いつから?」

「学校終わってから。」

「え!・・・もう5,6時間は経ってるんじゃない?どうしてまた?」

「・・・迷惑?」

「迷惑とかじゃなくて。ご両親も心配するだろう。」

「・・・」





ひどくうちのめされた気がした



”ごリョウシンも、シンパイするダロウ?”











なんて保護者的な意見

教育者としてのマニュアルに沿ったような言葉



でも、あなたはわたしの教育者なんかじゃない

わたしの保護者でもない

年上ではあるけれど

そんなふうに扱われる覚えはないわ





「今日は、友達のところに泊まるって言ってきたの。」

「え?それで、どこに泊まるの・・・」



言っている途中で彼はハッとする

わたしのまっすぐに見つめる視線を

探るように見つめ返す





”ドコに、泊まるノ?”

















「わたし、陽一さんのこと、好きです。」





それが全ての答えのようで

全ての問題提起のような



わたしは、彼に無理難題をおしつけた



いくら頭脳明晰の彼だって

この難題は解けるはずない





だって彼には私の気持ちには答えられないんだもの








「何時間だって待ってるつもりだった。陽一さんが帰ってくるまで。」





彼の全てを把握した顔

そんな全部わかってる、みたいな顔しないで

お願いだから・・・



「携帯もうちに置いてきた。ここで追い返されたら私、行く所ないの。」



あなたは私を追い払うことなんて簡単だから

こうでもしなきゃあなたの部屋に上がることすらできない



「今夜で全て決めようと思って来たんだよ。

どんな結果になっても、今夜以降は泣くのはやめようって。」



半分おどしのような言葉を

幾重にも重ねて彼に押し付ける









彼は無表情のまま

すこしだけ溜息をついて

私に歩み寄ってきた





「とにかく、上がろう。ここじゃ目立つよ。」



肩に少し手が触れただけで

私は勢いよくその手を払いのけた





「やめてよ。」

ちゃん?」

「・・・とにかく落ち着かせて、それでじっくり説得して。

諦めさせようなんて思ってるんでしょ?」

「何言って・・・」

「そうやって冷静なふりして!ふるのは慣れてるみたいな顔して・・・」

「そんなこと」

「陽一さんは何にもわかってない!私のことなんて、何にも!」











そこまで言って彼の顔を見ると

すごく傷付いた顔をしていた





「・・・わかってるよ。ちゃんの気持ちは。」

「・・・わかってないよ。」

「わかってる。」

「わかってない!」







最後は声が震えてた

彼の「わかってる」の後に

今にも「けど」がつきそうで



・・・こわかった



































「わかってるなら・・・私が今、なんで泣くのかわかる?」











彼は息を飲むような顔をして

そしていくつもその答えを浮かべている顔をした





”僕にふられるのがわかるから?”


”僕が答えられない顔をしているから?”


     ・・・”僕が、わかってるふりをしてるから?”



















きっと彼の思う全ての答えは

正しいようで違っていた





私はただ・・・







「僕、だなんて普段言わないくせに。」

「・・・え」

「自分のこと僕って言うのは、ビジネス用なんでしょ?」

「・・・」



























私はあなたを陽一って呼びたくて



あなたには私の前で俺って言ってほしかった







私はただ・・・



あなたと対等になりたかっただけなの









優しい言葉も、心配する顔も



安全なところへ促す手も



何にもいらない













ただ、













「泣かないで」じゃなくて



「泣くな」って









言ってほしかっただけなの



















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やさしさが罪なときってありますよね。
彼はやさしいけれど、鈍感じゃないからこそ
こうして女性を傷つけて、自分も傷付いてしまう。
んじゃないかと思います。
器用すぎて、不器用なんですよね。
器用と不器用は紙一重だと思ってます。


PHOTO by[ NOION ]

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