ミルクと夕暮れ
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かち、かち、かち、かち 規則正しい音が聞こえる 俺ははっきりと目を覚ました 目覚めのよさは結構なものなのだ えっと・・・ここは、どこだったっけ きれいに片づいた寝室 カーテンの閉じた窓を見ると 陽が傾きかけているのがわかった あ、そうか 彼女の部屋に転がり込んだんだ 今何時なんだろう? 時計を見ると 16時15分をさしていた よかった。 携帯のアラームをかけたのは16時30分で 仕事は17時30分から 今起きても準備がゆっくりできるくらいで どっちみち二度寝するには危険な時刻 このまま起きてしまおう シーツをどかしてあくびを一つ 俺が脱いだあと彼女がそろえてくれたらしいスリッパを履いて 寝室を出た 彼女はリビングでパソコンにむかっていた 「あら、おはよ。」 振り向いた彼女は眼鏡をかけている 「コンタクトは?」 「休みの日だから面倒で。」 そう言いながら彼女は眼鏡をはずして立ち上がる 目の疲れをとるように、少しだけ瞬きを続ける 俺がパソコンを見て、仕事?と聞くと そう。と頷く 来週の分、先に整理しときたくて、持ち帰ったの。と まだぼんやりする頭で彼女の動きを目で追う 彼女は冷蔵庫からペットボトルをだして 口をつけてミネラルウォーターを飲んだ 「ぷはーっ。うまいうまい。」 「ずっと仕事してたの?」 「ん?今何時?」 「今、4時20分かな。」 「ありゃーそんな経ってたんだ?まだ1時くらいかと思ってたわ。」 「人の事言えないな。」 ふふん、って感じに彼女が笑顔をつくる 彼女の飾らない笑顔は すっぴんだろうが眼鏡だろうが寝起きだろうが 一番輝く瞬間だと俺は思う かわいらしい女の子、っていうのは世の中たくさんいるけど 輝く笑顔を持つ女の子、は、 芸能界のなかにいてもそう容易く見つからない 「何時に出る?」 「ん、5時かな。」 「あ、そう。じゃあ私は5時まで休憩。」 彼女の言葉にちょっと目が覚めた思いで 洗面所に入った 鏡を見ると 俺の髪型はさすがに外には出られない形になっていて 俺が起きてきたときに彼女はよく笑わなかったな、と思うほど 鏡の前にたてられたハブラシは二本 もちろん片方が俺のハブラシで 別に一緒に住んでるわけではないのに 俺の不規則な生活を知って、彼女がある日用意してくれた 今日、ここに来た理由に歯を磨きたかった、というのもある 風呂を貸してくれる友達はいるけど ハブラシを貸してくれる友達は日本中探してもいないだろう もちろん、彼女に会いたかったのが一番の理由だけれど 顔を洗って、歯を磨いて、寝ぐせをどうにかして直して 洗面所を出て彼女の前に現れたときには 彼女はテレビを見ながらひとりで何か食べていた コンタクトも眼鏡もしていない俺には それが何なのかさっぱりわからず、素直に聞いてみる 「何食べてんの?」 「あ、陽一もほしい?」 「何それ?」 「色々あるよ。チャイがいい?レーズン?グリーンティ?」 「???」 「・・・あ、ごめんごめん。ハーゲンダッツの事だよ。」 「寝起きにはキツイ質問だった。」 「だよね(笑)食べる?」 「いや、やめとくよ。食べてるうちに時間がきちゃうから。」 「あ、そっか・・・」 時計を見たときの彼女の横顔が少し寂しそうで 俺はなんとなく満足感を覚える 「仕事終わったら、また帰ってくるから。」 と、言うと 彼女は意外にも素直に 「うん。」 と、うれしそうに笑った |
彼女の部屋を出て、陽が傾きかけた道を歩く ゆうべは研究室に入ってる友達の興味深い話を聞いて徹夜 朝寝て夕方起きて仕事に向かう 体にも年齢的にもつらい時間なのに 妙に晴れやかな気分で仕事に向かえるのは 終わったあとも彼女の笑顔が見られるからなんだろうな そう考えながら それに気づかないふりをして 少し早足で駐車場に向かった |
ついつい調子に乗って、日常の風景北山編も書いてしまいました。
こういうのって、書いてるとどんどん出てくるんですね。
日常って一番際限ないじゃないですか。しあわせの形って。
マグカップひとつにも、ハブラシひとつにもしあわせはつまってる。
こういう形って、さりげなければないほど、しあわせだよね。
どんどん出てきそうです。
※ページをとじてください。
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