Super natural











彼女と僕は、頻繁に会って、よく食事をした
同業者として、話はいつも弾んだ


やたら共通点があったせいか
僕たちは会ってすぐに意気投合して
僕は会って次の日には食事にさそってた

話してみると、彼女はまるで
最先端の技術で作られた機械のように頭がよくて
それでいて、心は誰よりも柔らかかった


僕の話を楽しそうに、うれしそうに聞いてくれて
必ず相手や他人をたてる
自分の話は控えめで、それでも質問には必ず
力強い返事をくれた





彼女の曲は、漂うという言葉がぴったりで
彼女独特の言葉が会話をしているなかにも
自然に漂っていた

僕の作った曲を歌ってみてほしいとひそかに思いながらも
ずっとそれを言い出せずにいる

こんなに図々しい僕が言えずにいるなんて
僕の中の彼女のイメージは、限りなく近くて遠い


そんな気がする





「さて、これからどうする?」


いつものように食事をして店を出たら
まだ少し早い時間だった

いつもだったら店を出たら送っていく時間なのだ


いつもと違う外の様子に
ついこの先の時間を彼女に求めた



「どうしよう?飲み直すにはちょっと時間が足りないですよね。」


空を見上げながら微笑む彼女





今日は、いつもと違う彼女が見られる予感がする…













俺は

「ちょっとコンビニ入っていい?」

と、唐突にコンビニの前で立ち止まり
一緒に並んで入ろうか迷っている彼女の手を
不意打ちで握って一緒に店に入った


俺が選んだのは缶ビールと手持ち花火セット




「北山さん?これ飲むんですか?」

目を丸くしている彼女に
無防備な笑顔を向けてうなづく

「そうだよ。飲みながら花火やろうよ。」
「私はいいですけど…北山さん明日仕事は…」
「今日できることは今日する。明日は明日。」


俺のあまりにはっきりした言葉に
彼女はすこし安心したような、いたずらっこみたいな笑顔を見せた







すこし歩けば海がある


それだけを頼りにして
もうすっかり暗くなった道を
コンビニ袋をぶらさげながらふたりで歩く

夏の虫と、風鈴と、彼女のサンダルの音
鈴の鳴くような、彼女の声


「北山さん、缶ビールってイメージないですよ。」
「うん、よく言われる。」
「ほんとに飲んでいいんですか?」
「なんで?」
「だって…色々と制限してるんでしょう?」
「そりゃしてるけどね、どうしてもしたい事を我慢するほどの制限は逆にストレスだから。」
「という事は、どうしても飲みたいんですね。」
「そういう事。」


目を見合わせて笑い合う間に
俺たちふたりの目の前に海岸が広がった

きれいな街灯が並ぶ道を横切って
波の音が支配する海岸におりた









「海が、ようこそ、って。」
「うん、言ってるね。」



第三者じゃ理解できないであろう二人の会話が
俺にはどうしようもなく心地よかった


その夜は運のいいことに月がよく見えた

風もなかったので火もちゃんとついて
ピンクや緑いろに光る花火よりも
それに照らされる彼女の笑顔ばかり見ていた

波のおとと花火の音しか聞こえないその世界で
俺は彼女と自分しかいないその場所を
一生離れたくない、とさえ思った

心地いい場所にいると
どうしても眠くなる

永遠に続いてほしいのに
それをかみしめていたいのに
どうしても眠くなる



彼女も同じ気持ちでいてくれたらいいのにと
月に願った、そのとき


彼女の持っていた花火が終わりを告げて
用意されたように暗闇と沈黙がおとずれた




そしてワンテンポ遅れて、彼女がため息をついた




それは否定的なため息なんかじゃなく
何かを逃がすようなものでもなく
光の消えたその場所に
そっと魂を送り込むような、そんなため息だった


消えた花火を持ったまましゃがんで
その瞳にはなにかがこもっていた









「昔、お父さんと花火をした。」



物語を話してくれるような口調で
ゆっくり彼女が話し始める


「さんざん大騒ぎして光を追いかけて、笑って遊んだあと。線香花火をしたの。」
「うん。」
「線香花火って、こう、最後に火の塊が残るじゃない。」
「うん。」
「それが地面に落ちた、ときの、お父さんの寂しそうな顔が忘れられない。」



それは何の脈絡もなく、落ちもなく
ただの彼女のつぶやきだった


けれど、俺の心にはその小さな話がつよく響いた


買ってきた花火セットの中には

あと、残すところ線香花火だけだった









まだ線香花火が残っているのに、俺は
「さて、帰ろうか。」
と、散らばった花火を袋に片づけた



すると彼女は信じられないくらい素直に
うん、と立ち上がった







彼女は、線香花火がきらいなんだ。


それが言いたくて、話をしてくれたのだ。










彼女との会話には、どこかにいつもストーリー性があって
彼女が「線香花火がきらい」とひとつ言うのにも
ものすごい力を使っているんだ、ということが分かって

それに気づくたびに
彼女の傷を癒せるひとは、この世にいるのだろうかと
不安になったりもした



俺じゃ、無理な気がする













彼女は、まるで泳ぐように砂の中に手をさしこんで
目をとじて大地の声を聞いていた

手を出すと、まとわりついた砂をはらって
波間に近づいていき、海水で手を洗った

薄手のまっしろなスカートをはいていた彼女は
手ですこし波をもてあそび
月明かりに輝く波をのぞきこんで



「へへ」

と笑った














彼女は、自然に帰るのだ


と、ふと思った





彼女が自然にひとの心に入ってくるわけ

それは、彼女自体が自然だからなんだ





だから、海や、砂や、月や、水

自然の産物に触れると彼女は、自然に帰れるから

だから彼女は、「へへ」と、笑ったのだ








俺は彼女に触れることはできなかった



俺なんかの、手で
彼女に触れてはいけない気がしたから











彼女はいつまでも、いつまでも


いつまでも、目の前で、夜の海辺で


微笑んで漂っていた







































真っ暗な部屋で、音楽も聴かずに、スタンドの灯りだけで書いたお話。
多分わたしの中の、スーパーナチュラルな世界がここにあるんだと思う。
素直に、耳をすませて、無心に、かいてみました。
ほとんど手直しナシで、最後まで書き上げました。
あれほど自然体な北山さんが触れることすらできない人ってどんな人だろ。
本当に透き通った人っているよね。そんな人にわたしはなりたくて。
いつもいつも、そんな人を悔しい思いで見つめてる。
あんな人間に、なりたい。自分の心を伝えるのに、もの凄いパワーを使って
それだけのために自らを傷つけてしまうような、そんなまっすぐな人に。










































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