第 十 話












「てつやによろしくって。藤井さんが」





俺がよく行く串揚げのうまい居酒屋に入って

席についておしぼりを受け取るなり

菜緒は言った





「あぁ、元気?あいつ」

「元気よ。相変わらず」





今日は菜緒が帰国するということで

ダッシュで仕事を終わらせて

1分でも待たせてなるものかと空港へ急いだのだ



結局、はりきり過ぎた俺のほうが20分ほど待って

ゲートから菜緒の姿を認めたときは

こんなにも会いたかったのか、俺、と感動すらしていた







隣にすわる菜緒は、一杯目のビールを飲んで

心なしか頬を上気させて

ずっとやわらかな笑みを浮かべている



しあわせそうに見えるのは

俺がしあわせだからなのかも





そんなこと、言えるわけもないが

とにかくこの限られた時間を、おだやかに、楽しく過ごしたいと

願いながら酒をあじわう





ふたり肩を並べて酒を飲む

俺はこの瞬間を、ここ数日何度想像して

ひとりニヤついてたことだろう











「今日は何時頃かえる?」

「え?」





オレの質問に、きょとんと目をみはる菜緒

片手にはうずらの串揚げ





「実家帰るんだろ?」

「ううん」

「えっ?」

「親には明日帰るって言ってあるよ」


当然のように言って

俺も自分の気の利かなさにうんざりする





いい大人が、それはないよな

確かに











いまだ菜緒を高校生のように思っているわけではないが

彼女の両親をつねに意識しているのは確かだ



若い頃とはいえ、

彼女の父親に殴られたトラウマ?は、なかなか消えるもんじゃない











「大胆になりましたねー」

「もう!」



きょとんとした顔のあと

すこし心配そうにしていた菜緒は

俺の冗談にまた頬をゆるませて笑った

























「そういえば藤井さんのことなんだけど」





かなりの不意打ちで

菜緒が切り出した



俺はもう1テンポ遅かったら

ビールを吹いていたかもしれない





「あぁ、何?」

「別れたみたいなの。小夜さんと」

「・・・あぁ、そうなん?」





すこしは驚いた演技でもすればいいものを

耳から入る情報と、

脳がそれを感知するのと、

それらしい反応を示すのが、

それぞれ少しずつテンポがずれてしまっている



それもこれも、すきっ腹に入れた酒のせいで



今頃きっと藤井と小夜は日本で会って

話し合って

きっと、そのままうまくいくだろういう

根拠の無い安心感から

若干、油断をしていたのもある







「あんまり驚かないね」

「いや、驚いてるよ」

「私はいまでも信じられないのに・・」





俺が小夜から別れたことを聞かされたときの反応と

菜緒のそれに、だいぶギャップがあるなぁと思う



あの二人に、俺はさほどこれといった印象も持っていなかったからだが









さっきまで完全にゆるんでいた菜緒の表情が

かげっている



ふたりの別れに、納得がいっていないような

不安げな表情





「お前がしょげててもしょうがないだろ」

「そうだけどね」

「そりゃ色々あるさ。大人なんだから」

「子供扱いしてる?」

「してない。してないけどよ」



菜緒は余計、口をとがらせる



俺は、そこまでこだわるワケがいまいちわからず

苦笑いを返すと

菜緒が意外な言葉を口にする

















「だって藤井さん、せっかくの夏休みも帰らないなんていうし」





「・・・・・・・・え?」





















なんだって?













「うそだろ?」

「?うそじゃないよ。休みはとるけど、日本には帰ってこないのよ」

「いやいやいや、そんなわけ・・・」

「・・・?」









そんなわけないだろう



それが本当なら、あれは一体・・・?









”彼も帰ってくるって”



”別に、私に会いにじゃないよ。でも、連絡くれたから会えるのかもね”









「仕事が・・・いそがしいとか?」

「ううん。最初から全く帰る気なしってかんじだった」

「・・・」

「小夜さんに会って話せばいいのに。・・・って、事情も知らない私が言うのもなんだけど」











小夜は、俺に嘘をついた?





・・・というよりも






強がったのかもしれない







ここ数日連絡がないのも、きっと藤井と会っているのだろうと

そう思っていたのに

俺の勝手な安堵は、一気に崩れ去る





強がっていなければ

そんな嘘を俺につく必要はないはずだし



そして最後の電話・・・








少なくとも今彼女が、平気で過ごしているとは思えずに

暗雲がたちこめるように

俺の心はモヤモヤと曇り出す



















「てつや? どうしたの」











菜緒が、俺の腕にふれて訊ねた



俺はびくりと反応する













「いや、なんでもな・・・」







RRRRRRRRRRRRR

















「!」

















ふたりの間に割り込むように

俺の携帯がテーブルの上で鳴り響いた





俺は液晶画面を確認するかしないかという

ものすごい勢いで携帯をとりあげる



菜緒も俺と同時に、おなじものを見たとしたら

”それ”に気づいたかもしれない





































着信   - 小夜 -




















































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