第 十一 話












「 ごめんなさい。彼女と、会ってたかな・・・ 」

「 あぁ・・まぁ 」

「 ・・・ごめん、切るね 」

「 待てよっ 」



「 また、俺から電話するから 」











なんてことを言ったのだろう

ぼんやりと灯る煙草の先を眺めながら

ため息のように煙をはきだす



立ち上がると、腰掛けていたベッドが

軋んだ音をたてる






「てつや?」




菜緒はかすかな物音で目を覚ます癖がある

ベッドサイドの淡い灯りにすら

まぶしそうな顔をしてこちらを見る


「ワリィ、起こしたか」

「ウン・・・眠りが浅かったから。今何時?」

「3時、過ぎ、かな」
























「 悪い、ちょっと 」



短く伝えて席を立った

店を出て通話ボタンを押す



小夜 の二文字が並んだ画面を

あれだけすばやく隠すように取り上げて

出ないわけにはいかなかった


菜緒は明らかに、驚いた表情をしていた
































「何か考えごと?」




上半身を起こして、菜緒は前髪をかきあげた

小指につけたリングが光る




「いや、んなことないけど。なかなか寝付けなくて」

「疲れてる?」

「かもな。最近忙しかった」




俺は安心させるように笑顔を見せるけど

それが意識的なものだってことに

菜緒なら気づくかもしれない






「・・・」





意味のあるような、ないような沈黙


電話をおえて戻ったあと

菜緒はなにも尋ねなかった

俺が、「悪いな」と言っても

同じタイミングでビールに口をつけ、うなづいただけだった





聞かれたら、言ったかもしれない

小夜と東京で再会したこと

度々会っていたこと

でも、心配をかけたくなくて黙っていたのだと

今このタイミングで言えば不自然でも何でもない



ただ、彼女がなんらかの助けを求めて

電話をしてきたのであろうことは

予想はついたが、菜緒には言えないと思った


それはそうだ

俺にだって意味がわからないんだから














結局、さらりと言えないやましさはある

聞かれなきゃ言わないようなやましさが、あるんだろうか











「寝るわね」




菜緒が遠慮がちな(そう見えるだけかもしれない)微笑を浮かべて


言った





















































てつやは何かを隠してる




帰国して早々、そんな疑いを持たされるとは

飛行機に乗り込むときはまさか思いもしなかった


単純に会えるのが楽しみだった

浩二とつきあってた頃にはなかったような

うきうきと弾むような期待

相手を喜ばそうとするだけでなく

自然と笑顔になれる、安らげる





そんな時間をただ求めて

日本へ帰ってきたはずなのに





「寝るわね」と言って

彼に背をむけて布団をかぶる



でも、実際は

寝るわね は、

一人にさせて という意味で言った

自分の声が、自分の耳には少なくとも

そう聞こえた











”日本に帰ってくる話が出ているの”



何度も言い回しに悩んで

そう言おう、と決めた言葉も

結局出なかった







メールに書いたはずの

「ちょっとした報告」も、

てつやは忘れてしまったのか

聞いてはくれなかった











一度ふさいでしまった扉は

そう簡単には開いてくれない



自分の家の玄関なのに

開け方がわからない

鍵がどこにあるのかわからない

というようなもの悲しい、感覚



すでに帰国したことを後悔しはじめていた

てつやが私の帰りを喜んでくれたのは

ゲートで顔を見たときに充分伝わってきたのに

どうして、なにもかもが色あせてしまうの














不安にさせるなんて、ひどい















でも、



何も心配するようなことなんて無いのかもしれないのに

さらりと聞けない私も悪い



やましいことなどなく

てつやは「言う必要もない」と判断して

何も言わなかったことかもしれない

聞くほうが、気まずくなるのかもしれないし











わたし、こんな女だったっけ・・・











眠れもせずに目を閉じる

今までさらりとこなせてきたことが

なんだかできない


てつやに遠慮などしていない


けど、私は日本へ来ることは

いわばてつやの時間に侵入することのように

つい感じてしまう

見えていなかったてつやの生活に

突如介入することは容易ではない



とすると、逆に

私はてつやがアメリカにくるとき

私の生活に”侵入”されただなんて

思っていたのかな・・

心のどこかで、そう思っていたのかな

















いつの間にか、私は眠りについていて



次に気づいたときには

てつやも眠りについていて

互いに背をむけて同じベッドに入っていた



それがなぜか、とても心地よく眠れる方法だと

ぼんやりと思いながら、目を閉じた




















































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