第 八 話












小夜と会うようになってから

早3ヶ月が経とうとしている



これまで彼女からの連絡が、2日以上続いたことはなかった



大抵10日程度

短くても1週間の間隔は空けて連絡がきていた

必ず電話の前にメールが入って、その返事をうつと電話がかかってくる

というのが定番になってきていた



その後食事にいくこともあれば、

連絡だけのこともあった



俺から連絡したことは、一度もない

今のところは













しかし、

昨夜会ったばかりの小夜からの電話が鳴ったとき

俺は、ぶっちゃけビビっていた



どんどん踏み込まれている距離感に、

小夜の油断のならない態度、えもいわれぬ雰囲気

自分が断りもせず、歯向かうこともせず

かといって言いなりでもない、宙に浮いたようなこの関係に











考えかけていつも途中でうちけすギモンがある





もし、菜緒が日本にいても

彼女と会っただろうか・・・と





























「もしもし」

「おぉ、悪い。運転中だった」





ビビって出なかっただけのくせに

性懲りも無くかけ直して、意味のない嘘をつく





「今日空いてる?」

「唐突だな」

「あなたって不定休だから突然じゃなきゃつかまらないでしょ」

「空いてねぇよ」

「そう。じゃあ明日は?」

「あのなぁ・・・」

「予約しとかなきゃ」

「そりゃそうだけど」

「あなたとお酒飲むの、好きなの」





好きなの と言われて

邪険にできる男がいるだろうか













俺は舌打ちをする





そうやって正当化して

すこし先で、自分が落ちていくのを見てる

手加減をしながら、すれすれのところで





過ちを犯す者の典型的な麻痺状態













そんな人間を想って、

異国の地でがんばってる菜緒の顔を思い浮かべ

俺は口を開く



























「俺がつかまらなきゃ他のツレと飲めよ」

「え?」



「俺じゃなくてもいいだろ」

















思いのほか、口調が冷たくなった

返事を待つより先に、ひとりで勝手に冷や汗をかく

自分の口から出た言葉に

恐れすら感じて









「どういう意味?」

「いや・・・」

「迷惑だった?」

「・・・」









なんてきっぱりと尋ねるのだろう この女は


そんなことを聞いたあとの


俺の返事が・・・







「・・・・・」







怖くは、ないのか

































「迷惑じゃ、ないけど」

































なにかが大きく間違って



ひどく歪んでいくのがわかる







そしてそれが、もうずいぶん前からそうなっていたことにも



気付く























「じゃあ何?罪悪感?」

「そうだ」

「彼女に?」

「そうだ」

「私達には何もないのに?」

「そうだよ!」

「どうして?」









電話ごしなのに

まっすぐに見詰められている感覚に陥るが

頭だけは冷静に、その疑問符に対する答えを求める

















答えは簡単







菜緒を、好きだから

菜緒を、大事にしたいから



























それなのに



どうしてそれを伝えるのが



こんなにも苦しいのか







































「・・・ごめんね。意地悪した」







沈黙をおとしたあと、

彼女は、あっさりと降参した







「や、いいよ」

「うらやましい。彼女が」

「・・・」

「”あなたに愛されてるから” なんかじゃないわよ」

「わかってるよ」







つい、鼻先から笑いがもれる

めずらしく、彼女がムキになったからだ























「離れてる場所で、大事に思われるって、どんな感じかしら」

























彼女の口から出た

今までのどの言葉よりも

悲痛なつぶやきだった





それは、本当に、悲しい響きをはなっていた









































「お前ら、どうして別れたんだよ」

「なによ、急に」

「肝心なこと聞いてねぇんじゃ慰めようがないだろ」

「慰めてほしくてこんなこと言ってるんじゃないわっ」

「だったら・・・っ」

















だめだ





つい、口をつぐむ





これ以上は言えない























中途半端なところで言葉をなくした俺に

小夜は今度はやさしい声を返した







「どうしたの」

「・・・いや、なんでもない」

「”だったら・・・ そんな悲しそうにするな”って?」





少しちがうが、大体合ってる





「大丈夫よ。そんなに落ちてない」

「や、落ち込みまくってるだろ。俺なんかに依存するなんて(笑)」

「落ち込んでるって言ったらつきあってくれるわけ?」

「あぁ、話なら聞くよ」

「そういうの嫌い。立ち直るのがいやになりそう」

「そう言うなよ」





なぜだか俺がすがるような形になる

明らかに、彼女の口調に翳りがある



さっきより確実に、落ち込んでいる

そこにささやかな、焦りすら感じる











「・・・今日は、しゃべりすぎた」

「もう飲んでんじゃねぇだろうな?」

「飲んでないわよ。まんまと慰められるなんて、ごめんだよ」

「なに肩肘はってんの?」

「これが私よ」















きっぱりと悲しくも言い放った彼女が

なぜかアメリカに発つ前の菜緒と重なる





顔形はまったく似ても似つかないが、どうしても思い出す





凛とした女性は、なぜこうも、不器用で愛しくて

目が離せないんだろう











































彼女はそれっきりほとんど話さずに

電話を切った





泣いていたのかもしれないし

ただ、怒っていただけかもしれない





























それから夏休みまで、 小夜からの連絡はなかった




















































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