一期一会
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「あ!!」 隣で大声をあげるのはリーダー なんだかわからないが暴れている こんな大男に暴れられたら車が縦揺れしてしょうがない 「ちょっと、あんた何暴れてんの。」 「酒井ちょっと、俺やばいもん落とした!」 「何を?」 「指輪!」 「どこに!?」 「シートの下!」 なんだってそんなところに・・・ 「指輪なんかしてたっけ?」 「今日に限ってしてたんだよ。」 「なんではずすかなぁ?」 「外れたんだよ!最近痩せたからなー、くそっ・・・」 リーダーは助手席に座っていて 右手の人差し指にしていた指輪がすっぽりと抜け シートの端に入って転がり込んだらしい でかい体をふたつ折りにしてシートの下をのぞきこんで 体を起こそうとして頭をぶつけた 「ぃて!!あった!・・・ん?なんだこりゃ。違うじゃねぇか!」 リーダーが指輪とまちがえて拾い上げたのは 小さな、汚れた、ヘアピンだった 「・・・これは。」 見覚えがあるような、ないような どこで見たんだっけ? だいたい、ヘアピンなんて女の・・・ 「あっ!」 俺の大声に驚いて、リーダーはまた頭をぶつける 「・・・っつ〜・・・」 俺は、つい車をとめてそのヘアピンを見つめた そうだ・・・ これは、あいつのものだ あの、鶴の写真の話をした日 あの後彼女は今のリーダーと同じように シートの下にヘアピンを一本落としたんだ 「2本ペアで気に入ってたのに。」 と彼女は半泣きになって一生懸命探していた 結局見つけられずに諦めて帰って行ったが 最後まで彼女は落ち込んだままだった 「また、似たようなの買ってやるから。」 と帰り際に俺は言ったけど 彼女は無理して笑って ついにそれを買ってあげることができないまま 俺たちは終わった 夕暮れの駅のホームで まるでドラマのような情景のなか 彼女から切り出された別れに 何も答えられない俺がいた そのヘアピンは、指でほこりをぬぐうと まだキレイなままだった リーダーが今度こそ指輪を見つけて起きあがった 「あった!!ゲっ、汚ねぇ・・・ほこりがすげぇよ酒井。あ〜腰いてぇ・・・」 |
家に帰ると俺は 真っ先にヘアピンを磨けるものを探した それはティッシュでもタオルでもなんでもよかったのに 俺はCDを磨くやわらかい布で 傷つけないように丁寧にそれを拭いた もう何ヶ月もシートの下にあったんだ ほこりだけじゃなく油も少しついていたし 色も落ちているように見えた 俺はこれを、彼女に返しにいくことにした リーダーに言ったら 「やめとけよ。今更会いにこられても困るだろ。もっとそれが高価なもんなら別だけどさ・・・」 人には人の価値観がある これは少なくともあの頃の彼女にとっては大事なものだったはず 俺はリーダーに話しはしたが 行くか行かないか決めてもらおうとしたわけではない 行くと決めたら、行く、のだ。俺は。 |
わかると思いますが、日常シリーズじゃありません。これが日常だったら酒井さん病気になります。
例え、今の自分ならあの頃よりうまく愛せるかもしれない、と思っても戻りたいと思ってはいけないと思うんです。
それじゃ前に進めないし、相手もしばることになる。やり直せる人もいるけれど、それは本当に数えるほど。
たいていの人が、何度も何度も一期一会を逃して今を生きてるんだから。
わたしもよく車のシートの下に小物を落とすんです。それで闇に葬られたものは数知れず、です。
ほんと、みなさん気をつけましょう。(お前だけだよ)
※ページをとじてください。
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