プロポーズ























「…?」





どれくらい呆然としていた事だろう



浩二に心配そうに名前を呼ばれるまで

わたしはずっとその小さな箱を見つめてた





「大丈夫か?」

「…あ、うん。」









言わなければ


今、言わなければ







でも、何から言ったらいいのかわからない









「あの…浩二」

「ん?」

「さっきの、課長の話なんだけど」

「え、ちょっと待って。その前に俺の話の返事は?」

「違うの、あの……いいから、聞いて。」

「…ん、わかった。」





浩二は決して怒らない

私が待ったと言えば、いつまでも信じて待ってくれる人



そんな人に、いい加減に「待ってて」なんて

私には言えない





「異動の、話が出てるの。」

「異動!?」

「…そう。」

「そっか。急だな…。で、どこに?」

「…海外事業部。」

「あぁ、入社の時から希望してたもんな。よかったじゃん。」





最後にもう一度、てつやの顔が浮かぶ

それは10年前のてっちゃんじゃなく

数日前に見た、伏し目がちのさみしそうなてつやだった





こんな大切な告白をしているのに

目をつぶると浮かぶのが浩二じゃないなんて




私は自分を戒めるように、拳を強く握った











































「アメリカに…行かないかって言われたの。」





「…え」











子犬のような、少年のような

透き通った浩二の瞳が曇る瞬間を

私は何よりも見たくない



大きな瞳と、その上の芯の強そうな眉と

きれいに通った細い鼻筋と、ちいさな口

女性顔負けのきれいな頬と、真っ黒な短髪





私の大好きだったその全てが


今、悲しかった


















「…行くの?」

「…行きたい、けど」





答えて、私は浩二の差し出した小さな箱を見つめた

浩二はそれをさりげなく、私の見えないところにしまった





「行きたいなら、行った方がいいよ。」

「でも…」

「勘違いするなよ、。お前が遠くに行ったって、気持ちが変わるわけじゃないんだから。」

「…浩二」

「今はまだその時じゃないだけだよ。海外勤務なんて3年くらいだろ?俺、待ってるよ。」

「…」

「先越されたのだけは、ちょっと悔しいけどな。」





浩二は笑顔なのに、どうしてこんなに悲しいの











それは、きっと……









































































「浩二、ごめん。」





口をついて出る言葉





でも、このごめんの本当の意味は

私しか知らない







、がんばれよ。応援してる。俺はずーっと、お前の味方だから。」







うそ


うそよ





”ごめん”の本当の意味を知ったら

そんな事言ってくれるはずない









私はその時、どうしようもない、汚いことを考えた

















「応援してる」も「味方だから」も




私があなたを好きという事実の上でしか成り立たないくせに





























「…浩二、ごめん。私、帰る。」

?」

「…ごめん。」









ここには今、いられない



いたら私はきっと、取り返しのつかない事を言ってしまう











わたしは席を立った



一度も、振り返らずに家に帰った





瞳に浮かぶのが、なんの涙なのか



わからないまま走った
























































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