バランス























私の配属が決まった海外事業部の海外赴任は

主に、海外のインテリアに触れ

自社の専属デザイナーを探すことが目的



デザイナーとの出会いから契約まで

すべては自分の芸術感覚と交渉力に頼る他ない

契約成立しても、それを自社に持ち帰り展開して

上に認められ、素材を探し、商品化し、何より顧客に認められなければいけない







成功すれば



海外のデザイナー業界からも、日本のインテリア業界からも

会社と専属デザイナーと、そして自分の名が売れる











この会社の入社試験の面接で

私はこの事業の魅力と熱い情熱を訴えた











今、私のもとにきている話は

すぐにデザイナー発掘とまではいかないが

その業務に同行してほしいとのことだった



そんな魅力的な話はなかった







幼い頃から、父親の書斎にある高そうな西洋造りの椅子に見とれ

母親の使う漆黒のドレッサーに憧れ

窓から見えるあのたくさんの屋根の下には、一体どんな暮らしがあるんだろうと

想いを馳せてきた













もし、てつやの事がなかったとしても


私は浩二のプロポーズは受けられなかっただろうと思う

































「こんばんは」





浩二と会った次の日

いつもと同じ時間に、バイトに向かった





「おぉ。」


カツさんがいつもの笑顔で迎えてくれる

浩二から、話は聞いていないようだった





「来る途中でイヌに追いかけられましたよ。」

「イヌ?なんだそりゃ」

「しっぽ踏んじゃって」

「なんでそんなのび太君みたいなベタな事してんだお前は(笑)」

「逃げ足だけは速いんで、無事でしたけど!」

「それで息きらしてたのか」

「あ、息きれてました!?」

「きれてたぞ」





一通り笑い話をしたあとに

カツさんが唐突に切り出した





「そういえば、転勤は決定か?」

「え!?」







突然の話題に、とっさに返す言葉のない私を見て

カツさんもすこしためらう





「あ、いや浩二に聞いてね。昨日。転勤の話がきてるって…」

「そうですか…。」





カツさんの何でもなさそうな顔を見て

浩二がプロポーズの話だけはしていない事がわかった


それはそうだろうと思う





浩二は私との関係については

あまりカツさんには話さないって言っていたし





「…決定、じゃないんだけど。まだ迷ってて」

「どうして?」

「親にも相談したくて。海外では暮らした事なんてないからちょっと考えたくて」










嘘だった



親に相談する気はなかった





ただ、自分の決心が鈍ったままなのだ













「返事はいつまでなんだ。」

「来週中って言われてます。」

「そうか。急なんだな。」

「でも転勤なんて普通は決定事項ですから、返事を待ってもらえてるだけ私はまだいい方です」



すこし沈黙が訪れる



「その仕事は、したいのか」

「はい。したいです」

「じゃあ行った方がいい」

「…ですかね」

「物事にランクをつけるわけじゃないがね。少なくともその仕事は、これを逃したらできないと思うね」





カツさんの言い分は間違いなかった

今の私だからこそ任された仕事

今回を逃して、次にいつ同じ仕事をまわしてもらえるかと考えても

その可能性はないに等しいのかもしれない







行きたい…











「浩二のことは気にするな。あいつはそんなに弱くないし簡単に気持ちも変わらんよ」

「え…。知ってたんですか?プロポーズのこと」

「あぁ、本人から聞いてはないけどな。あいつが考えてる事くらいわかるさ」

「…浩二には申し訳ないけど、私…」

「申し訳ないなんて思っちゃダメだ。一生に一度のチャンスだぞ」

「そう、ですね」



自分の息子が恋人と離ればなれになってしまうのに

それでも私の夢を応援してくれるカツさんに感謝した































私は、自分に気づかないふりをした





本当は、転勤の話が出てホっとしてる自分に



そして、自分の心の中で勝手に

てつやと浩二を乗せた天秤が揺れていたこと



その天秤に、わざと夢見ていた仕事を乗せることで

もともとぐらついていたバランスを自分で崩そうとしていたことに・・・









たとえ自分の気持ちがわからなくなったとしても


すべて仕事のせいにできると思った













向き合いたくなんかなかった





自分がこんなにも、過去にとらわれているのだという事に



























































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