会いたくて























「アメリカ、行くことにしたの」





お昼の食堂

友人であり、同期の早紀に私は打ち明けた





「そうなの!?わぁ、頑張ってね!」



彼女は小さな口で大きなスプーンのカレーを頬張って

私に笑顔でそう言ってくれた



「ありがと」

「いつから?浩二くんには言ったの?」

「出発は一ヶ月後。浩二には、行くつもり、としか言ってない。やっぱり早紀の言った通り、少し、もめてるの」

「やっぱり?行くなって言われた?」

「・・・そう言われた方が、マシかも」





私はぼそりと言って、フォークでレタスをつつく





「なにかあったの?」



早紀がスプーンを置いて水を飲みながら私の顔をうかがう

そもそも、早紀と浩二の会話からはじまって私の口はすべったのだけれど

そんな話を早紀にしたのでは彼女が責任を感じるかもしれないし

それにはてつやの話まで打ち明けなければならなくなる



なんとなく、てつやとの事を浮気心だとかいう軽い言葉で片づけられたくなかった

実際には、そうなのかもしれないけど

私は友達に、そんな”汚い自分”を見せられないととっさに思ってしまった

本来感情で動けるタイプではなかったのだと自分を決めつけて

勝手に他人の持つ自分のイメージを壊さないよう気を遣った





私の気持ちも、10年前の出来事も、今のてつやも

決して汚いものなんかじゃないのに

それはわかっているのに

10年の時が、それらを錆び付かせてしまった



錆び付いたオルゴールは

いくらあの頃と同じだけのねじを巻いても

かつてのきれいな音楽を奏でてはくれない

そんなものは、他人から見たらただのゴミでしかないのだ











でも、”それはゴミではないから、捨てないで”と



訴えることくらいならできるかもしれない









私ははじめて鎧を脱ごうと決めた



















「・・・私たち、別れるかもしれない」



つとめて無表情にそれだけ短く告げた

早紀の顔は見なかったけれど、持ちかけたスプーンを置いたのが見える



「え!?うそっ・・・?どうして?」

「・・・・・・」

?ねぇ、どうして別れるの?」

「・・・すこし前に私、初恋の人を思い出してたって言ったでしょ?」

「え?うん・・・まさか」

「そう。再会したの。この間・・・10年ぶりに」

「・・・その人のこと、好きになっちゃったの?」

「・・・なっちゃったっていうか・・・」





そこまで言って私は混乱した


再会して好きに”なっちゃった”のではない

出逢ってから、今まで”ずっと好きだった”のだ



でも、そんなことを信じてもらえるのだろうか

それなら今まで2年近く浩二とつきあってきたのは何だったんだと思われてしまう













脱ぎかけた鎧を、もう一度拾いあげようと逃げ腰になった時だった













「仕方ないよ。初恋の人なんでしょう?」



「・・・え」

「実らなかった初恋が戻ってきたんだもん。大事にしようよ」

「早紀・・・」

「浩二くんの前ではさすがにこんな事言えないけど、せっかく再会したんでしょ?しかも10年ぶりに。私だったら運命感じちゃう。 後悔しないようにしなきゃって、10年前よりも頑張っちゃうな」







視界がいっきに開けた気がした


いつも完璧を目指してきた

正しいことしか口に出してはいけないと思ってた

私の思う”正しいこと”が、本当に正しいかどうかもわからずに



その時の私にとって、無邪気なだけの性格だと思っていた早紀の言葉が


この世で今一番正しいことのように聞こえた













そう、思いたかったのかもしれない



















































その夜、バイトは入っていなかったけれど

私は店に顔を出した



迷いは晴れた今、はやくてつやに会いたかったからだ

その顔を見て、今度こそ自分の気持ちをはっきりさせたかった



会社を出る前に、課長に話してきたアメリカ行きの話も

決心がついたとてつやに聞いてほしかった



その時の私には少なくとも、浩二のことを考える余裕はなかった









「そうか。頑張れよ」



店にきて、私はカツさんに先にアメリカ転勤の話をした

カツさんはいつも心強い笑顔で返してくれた


それだけで肯定されているような気になって嬉しくて

私は来るかどうかもわからないままてつやを待った



店を開店して1時間

お客はまだ私以外に1組だけで店内は静かだった





「浩二には、ちゃんと私が話すから・・・」

「わかってる。俺から告げ口したりはせんよ」

「そうだよね、ごめんなさい」

「・・・テツの事を、好きだと言ったんだって?」



私は思わず顔を上げる

自分で言った言葉なのに、つい冷や汗をかく



「浩二が言ったの?」

「あぁ。昨日の夜、その席で酒飲んでったよ」

「・・・昨日、来たんだ」

「はじめてじゃないかな」

「何が?」

「いや、浩二が一人でここに客として来たのは」

「・・・そうなんだ」

「・・・・」



カツさんはまだ何か言いたそうにして

結局肩をすくめて、私から目をそらした





ついため息をつく



”はじめて”一人で飲みに来た・・・

カツさんも親なら、それが浩二にとってSOSだったことに

気づいているはず





浩二とは、具体的に別れ話をしたわけでも

互いの気持ちを打ち明けたわけでもなかった





それも、これも問題は山積みなのに



私はその全ての前に今夜、てつやに会いたかった











ただ・・・会いたかったの



























「コンバンワ」




私が店について待つこと3時間半

てつやは、夜9時半頃、その扉を開けた

























































































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