待ち伏せ























「今日、あいつ休みだけどどうかしたの」



フロアですれ違ったときにそう尋ねてきた黒縁の眼鏡の彼は

寺脇くんといって

同期で、浩二と同じ営業企画部

社内で私と浩二の仲を知っている数少ない人間のひとりだった



「休み?・・・知らなかった。どうして?」



私より30cmも背が高い寺脇くんは

私を見下ろして肩をすくめた


「俺も詳しく知らないんだ。有休とるとは聞いてないし、風邪かなんかじゃねぇかな」

「浩二からは何も?」

「あぁ、さっき時間みつけて一応携帯にメールしてみたけど返事こねぇし」

「・・・そう。ありがと」



営業企画部は他とちがって張りつめた雰囲気で

フロアですれ違ったりしても

ほんの1分の立ち話も満足にできないほど

上司が目を光らせているのだ


私は寺脇くんの上司が席に戻るを見て

彼にお礼を言い、足早にその場を離れた





私はエレベーターを待ちながら考える



浩二が会社を休んだ



私はそれに対し、激しく違和感を覚えた

寺脇くんの言う通り、今朝から急に体調を崩したのかもしれない

今頃家で寝ているかもしれない


でも、そんな時でも普段なら私にメールのひとつでもしてくるはずなのに





そこまで考えて、ハっとする





私は、”てつやが好き”と告白をしたんだ









別れ話のひとつもしていないにしろ

今は微妙な関係


浩二があえて連絡をよこさない可能性も、多いにある





でも今日はどうしても浩二に会って

アメリカ行きを告げなくてはいけなかった


てつやに話した時期と、浩二に話す時期の間に

無駄に大きく時間を空けたくなかった


そして、浩二が受け入れてくれるのならば

別れを言わなければいけないと思ったから













『おはよう。体調悪いの?寺脇くんも心配してたよ。メールする元気があれば、連絡ちょうだい。』





当たり障りのないメールを作って

私はエレベーターの中で、浩二にメールを送信した























結局、メールの返事はこずに

その日から続けて一週間

浩二は会社を休み続けた


私はというと、転勤が決まったことで

海外事業部への異動手続きと挨拶

短い研修と打ち合わせ

転勤の準備や、マンションの解約手続きで

カツさんのお店にバイトに行くことすらできなくなっていた


カツさんにはそういったわけで顔は出せないと

一度電話で連絡をいれたけど

その時に浩二の様子は聞けなかった


別れを切り出そうにも

話し合おうにも

私から電話をしても、メールをしても

浩二からの連絡は全くない


私はそれをいいことに

忙しさに紛れて浩二との関係を放置した


もちろん心配ではあったけれど

現実では仕事が次々に舞い込んで

家に帰ってもパソコンに向かっていることが多くなった


夜中までパソコンの画面に向かっていても

それでも心の隅では

いつもあのてつやとの乾杯の夜が

キラキラと輝いたままだった













2年近くも一緒にいたのに


ずっと、あのまっすぐな瞳に見つめられてきたのに


浩二の一番脆い部分を


私は何もわかってあげられていなかった





















その日は、いつにも増して仕事が多くて

でも残業制限を超えそうになっていたために

しかたなく家に持ち帰った


晩ご飯をつくるヒマもなさそうなので

適当にお弁当を買って

コーヒーが切れていたことを思い出して

コンビニでそれも買い

私は家でやるべき仕事のことを考えながら

足早にマンションに帰ってきた







灯りのついたマンションのエントランス

あたたかな照明の下に

見覚えのある自転車が止められている



早足だったわたしの足は、すこしずつスピードをゆるめて

その自転車のそばで座っている

一人の男を見つけると

完全にその足は止まってしまった





























「・・・浩二?」
























































    <<BACK        NEXT>>

SoulSerenale, TOP


photo by <凛-Rin->
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送