ただ、君の笑顔を























橋の上にいるをみつけた瞬間
俺は引き返そうと、思わず一歩あとずさった

あの頃の俺ならそのまま振り返らずに
走って家に帰っただろう



だが俺はもうあの頃の不器用な
なにもできない男じゃない
大事なひとをみすみす手放すような男じゃないし
どうしたらいいかわからずもどかしさから逃げてばかりの
ちっぽけな人間じゃない





・・・・そうだ


そもそも、はもう”大事なひと”なんかじゃない


かつての恋人であり
彼女には今、守ってくれるべき男がちゃんといるじゃないか


俺が逃げる必要が、どこにある







俺は足早にに近づいて
立ち尽くして動こうとしないその背中に
呼びかけた








ははじかれたようにびくりと振り返る
長い髪がさらりと舞って、肩から背中へ流れた

だが瞳がかち合うやいなや
今度は俺がびくりと反応する番だった
俺の心臓は反射的にひっくり返る

と再会したあの夜ほどはないにしろ
俺はポーカーフェイスを保てずに、眉がぴくりと反応した



のしろくふくらんだ頬には
限りなく透明な一筋の涙がつたっていたのだ




俺はまたもすこし後悔した

俺という奴は、どうしていつも自分のことしか考えないんだ
「もう逃げたくない」とか「俺はもう不器用じゃない」だとか
そんな自分の事情ばっかり並べ立てて
結局したいことが我慢できないだけじゃねぇか

自分がそれを許せても
相手がそれをすることを許さないときもある


それをすべきじゃないときも、ある




今明らかに、俺は声をかけるべきではなかった













「・・・てっちゃん」


永遠に続くかと思われた瞬間が
あっけなくの声によって終わりを告げた

はあきらかに動揺していた
俺と同じくらいか
おそらく、それ以上に


「・・・どうしたんだよ」


そっけなくなってしまうのはどうやら俺のくせで
若いころから変わってないようだ






「・・・・」


は答えない


答えない代わりに洟をすすって、俺から目をそらし
左手の中指と薬指で
頬につたった涙をぬぐう




















俺はそのとき確実に

なにかにピンときていた






とても濃いデジャブみたいなものだ

根拠もなく、前触れもなく

俺はそれに気づいてしまう


























「・・・・・、お前なんで指輪してねえんだよ」







はうごきをとめて
目だけはそらしたまま一点を見つめ
強張った表情のまま、おそらく俺のつぎのセリフを待っている















「彼氏と、話まとまったんじゃなかったのかよ」

「別れたの」



意を決したようにははっきりと
だけど、涙にからんだ声でつぶやく





状況を飲み込むのに時間がかかる



別れた? 別れたって、なんだ?

ついこないだプロポーズされたって聞いた

それがどこをどうしたら”別れる”になるんだよ?

































待てよ


ちょっと待ってくれ
















俺の中に、いやな予感がよぎる




































は、涙にぬれたままの瞳で
俺にまっすぐ向き直って


そして口を開きかける


のまなざしは強い
強く俺を見据えて、そらそうとしない




その全てが

まるでスロー映像を見るように映る


















「・・・私、てつやのこと・・・」












だめだ!




にそのセリフを言わせるなと
俺の頭に一瞬で警告が走った












そこまで聞いて俺は、ほぼ無意識に
の目の前に右手を思いきり広げてつきつけて
ストップの合図を出した



そうしながら
自分自身が10年前と重なっていくのを感じてた



俺はまた、から逃げるのか











「・・・何?」




のか細い声が聞こえる

俺は顔をあげられない

















この10年間、あんなに、あんなに


あんなにも願ったのに




どうして・・・






「どうして・・・」




















顔をあげられないまま

声を絞り出す





再会してから今まで

必死で、必死で隠してきた

この気持ち








それは、他でもない

・・・




お前がもう二度と泣かないためだったのに・・・




なのに・・・


どうして・・・・・・・















「どうして、幸せになってくれないんだよ・・・」


















逃げ切れない、と思った






なぁ、

どうして、俺たちまた

出逢っちまったんだろうな・・・

























































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