連絡























今、なぜか私の手元に
てつやの(ゴスペラーズの)CDがある

それは数年前に発売された
ラブソングコレクション「Love Notes」というCDで
たしか、これが出た頃
急激に彼らがメディアに露出しはじめ
どこをつけてもてつやの声が聴こえるから
テレビもラジオもろくに見ない日々が続いてた

それだけ避けてきたのに
どうしてこれが今、ここにあるのか

原因は浩二だった





「はい、これ」


あの日、カツさんのお店で食事をすませたあと
帰ろうとしたわたしにCDを手渡したのだ

「結構いいぜ」
「・・・買ったの?」

この状況で・・・
この人はどこかネジが緩んでるのだろうか
ため息まじりのわたしに

「そんな顔すんなって。音楽に罪はないんだからな」
「そうだけど・・・」
「あんまりこだわっちゃだめだ。心空っぽにして聴いてみな」


浩二はそう言うと、笑顔になって
”それ、返さなくていいよ。あげるから”と言って帰っていった
今までのように、わたしを送ってはくれなかった
当たり前だと思った




心を空っぽに、か
そんなのどうやってするんだろうと思いながら
わたしはデッキにCDを入れる

ずっと目をそむけてきたから
曲とタイトルも一致しない
すべて知らない曲のように
ジャケットに並ぶタイトルたち

とりあえず、一曲目から聴こうと思い
playボタンを押す




5人の男たちの
きれいなハーモニーが流れ始める
わたしはとりあえず、目を閉じてみた
ソファに座って、目を閉じて
音だけが体に染みこむように
ゆっくり、慎重に深呼吸を繰り返す


一曲目は、てつやでない人がメインで歌っていて
アカペラのバラードだった
ゆったりと流れるようにすすむメロディと
正確で精密なバックコーラス
どこかで聴いたようなメロディラインだと思いつつ
目を閉じて音に身を任せていた














ハッと目を開ける





この曲・・・





I'm with you どんな時も

I'm with you  どこにいても

今以上 そばにいるよ

It's my promise  だからこのまま

I'm with you  ためらわないで

この広い世界中で

たった一人の  君を生きて

keep smilin' it's just your promise















わたしはテーブルの上にあるCDケースにとびつくと
そこについていた帯を引っ張り出す

そこには
”デビュー曲「Promise」から「ひとり」までの極上ラブソング集”
と謳われていた



デビュー曲、Promise・・・
あの曲でデビュー、したんだ
あの10年前の夜、窓の下からかすれそうな悲しい声で
歌ってくれたあの曲
わたしにとっては、あれが最初で最後だったから
とても悲しい曲のような気がしてたけど
こんなにきれいな曲だったんだ・・・





「音楽に罪はないんだから」



本当だね、浩二

本当に悲しい曲なんて本当はひとつもない
音楽には、どの曲にも
こんなに作った人や歌っている人の愛が
つまっているんだから

こんなにきれいな曲に
ずっとずっと、耳をふさいできたのはわたし







「Love Notes」を最後まで聴きながら
10年前の夜のあの悲しい出来事が
まるで一枚の絵みたいに
きれいに思い出になっていくのを感じていた

10年かけて消せなかった悲しみが
この一枚で消えてゆく


だってあの夜、あの曲を
てつやが愛をいっぱいこめて歌ってくれたって
やっとわかったから

わたしに最後に歌ったその曲を掲げて
夢に向かっていったてつやの気持ちが
痛いほどに、今わかるから















あなたの歌が、


もう一度、聴きたい。









わたしは心を決めて、携帯に手をのばした



















































「21日だったよな?」


収録の合間の楽屋で
黒沢が俺に問いかける


「なにが?」
「例のチャリティーライブだよ」
「あぁ、CVC主催の?」
「そうそ。あれ俺らはチケット何枚ずつおさえとけるんだっけ?」
「いや、聞いてねぇな」
「奥さんもくるんだけどさ、親も来たがってて」
「取っておけば?足りなかったら俺の分使えよ」
「マジ?ありがと」
「高くつくぞ。お前俺に借りありすぎ」

俺達のやりとりを聞いて
携帯をのぞいている北山がふふん、と笑う

「おい北山、エロサイト見てニヤけてんじゃねぇぞ」
「見てないよ。てっちゃん、声が大きい」
「そうだよ、隣の楽屋上戸彩ちゃんだよ」
「別にいいじゃん、エロサイト見てんの北山だもん」
「だから見てないって。妹からひさしぶりにメールきてたの!」


男子高校生みたいなくだらない会話をして
そういえば俺も、おふくろからメールきてたな
返事を返してないことをふと思い出して
携帯をひっぱりだす


「俺もエロサイトみよーっと」
「見るのかよ!」


北山と安岡が俺につっこんで笑っているのを尻目に
携帯を開く





    着信あり   1件






ぴ ぴ





「なぁテツ〜、さっき言ってたライブの曲目なんだけど」
「あ、黒ぽん、だめだよ。今てっちゃんエロサイトに夢中」
「え!?あんな真剣なまなざしで!?」
「真剣なまなざし!」
「ぶはははっ」





メンバーのバカ笑いが遠く聞こえる
俺は携帯を握ったまま、立ち尽くしてしまった

なにか言い返そうにも口が動かない、
振り返ろうにも携帯から目が離せない、
なにより、頭が、まわらない・・・













    着信履歴

    6/18 17:42

    不在着信:















「うそだろ・・・」





俺の聞き取れないほどのつぶやきを
黒沢だけが気付いたが、
俺は人の目など全くかまっていられなくなっていた











ここ、2週間
彼女からの連絡を
どれほど、どれほど、
僕は待ち焦がれたろう



























































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