再会























わたしは彼に恋したことに後悔なんてしていない


再会したことだって、後悔なんてしない


ただ、もうすこし早く思い出にできていればと


今でもすこし、胸が痛む。





























その夜、はじめてのバイトの日だったのに

わたしは仕事のことはほとんど何も覚えられなかった



カツさんに渡されたものをテーブルに出して

帰った客のあとを片づけて

洗い物をしたり、料理の盛りつけを教わったり





終始、てつやの視線からは逃れられないままでいた











「テツ、お前今日はペースが遅いな。」



カツさんはたまにカウンターごしにてつやに茶々を入れて

てつやは適当に笑ってごまかしていた

私の動揺と、何を思っているのかわからないてつやの横顔

カウンターでカツさんの目の前を陣取っている彼は

何人のお客さんが来て、帰っていっても

一向に帰る気配はなかった













とはいつの知り合いなんだ。」



午後11時をまわった頃

ちょうどお客さんの足が途絶えたとき

カツさんがてつやに話しかけた



唐突な質問にわたしの方が持っていたグラスを落としそうになる







「10年ぐらい、前かな。全然会ってなかったけど。」





キッチンで洗い物をしている私の方は全く見ずに

てつやはただカツさんと会話をした





「10年前っつったら、浩二と一緒だから・・・高校生の時か?」

「そうですね。」



私は顔をあげずにカツさんに返事をする



「なに、浩二って誰?」

「あぁ、息子だよ。ちゃんは浩二の紹介なんだ。」

「ふぅん。」







てつやは静かにグラスに口をつけて



黙り込んだ

















わたしの心臓は波打った





もう、10年も経っているんだから

恋人のひとりや二人、できてて当然よ





てつやに心の中でそう訴えた









私の動揺は結局、てつやが帰る夜中1時まで続いた



てつやが店を出た時には

わたしはぐったりと疲れ切っていた









































ちゃん」



わたしのバイトの時間は深夜1時半までの約束で

ちょうど1時半になった頃

カツさんがわたしの名を呼んだ



「はい」

「そろそろあがっていいよ。ありがとう。」

「わかりました。これ全部洗ったら、帰らせてもらいますね。」



シンクに残っているグラスやお皿を続けて洗いはじめた時

カツさんは続けて私に話しかけた



「テツとは、何かあったのか?」

















ガチャンッ







てつやが帰って、気が緩んだときにカツさんからの質問

油断していた私の手元に、再び動揺が戻ったようで

グラスをひとつ、粉々に割ってしまった



「・・・っ、すみません!」

「あぁ、いいよ。怪我するから触らないで。」



すかさずカツさんはほうきとちりとりを持って駆け寄った

わたしは、宙に浮いたままのさっきの質問に

どう答えようか頭の中は混乱していた



片づけながら

カツさんがまた口を開く





「ごめんな、急にへんな事聞いたな。言いたくなきゃ無理に聞かないさ。」

「・・・あの」

「いや、10年ぶりの再会にしては二人の様子がおかしかったから。」



わたしは答えられないでいる



「しかし、この様子じゃやっぱり何かあるんだな。」



ちりとりにガラスの欠片たちを集めて

カツさんは少し、苦笑いながら言う









「ワケは聞かない。浩二にももちろん言わない。・・・でもちゃん、バイト、続けられるか?」





























そうだ





てつやは、ここの常連で

今夜てつやが帰ったところで、もう会わないわけじゃないんだ

てつやがどれくらいの頻度でここに通っているのかは知らないけど

これからも、会う事は間違いないんだ

















きらりと光る、ガラスの破片たちを見つめて





わたしの心で何かが目覚めるのを感じた













もう一度、会いたい・・・

















「・・・私、やめません。」





わたしの答えに、カツさんはホッとしたような

心配そうな複雑な表情を浮かべたあと

そうか、と力強く頷いた







「さぁ、もうあがんな。あとは俺がやる。」







カツさんに謝って、そして、着替えて私は店を出た




















































































































「よぉ。」







暗闇から声がした



















振り返ると、30分も前に帰ったはずのてつやが

廃墟になった隣の建物と、店との間の路地で

煙草を踏み消しているところだった





「・・・てっちゃん。」

「ずっと無視しやがって、カツさんが変に思うだろ。」













殺人犯にでも遭遇したかのように

わたしの手は完全に震えてた





てつやが怖いわけじゃない

緊張とも少し違う



何故だか、悲しくて、震えてきた











「どうやって帰んの。」

「・・・あの、通りまで出てタクシーで。」

「アホ。あぶねぇだろこんな暗い夜道。」









ほら、行くぞとでも言わんばかりに

てつやは勝手に私の行く手を歩き始めた



































































信じられない







てつやが、わたしを、待っていた







店を出て、30分もの間


わたしが出てくるのを、待っていた

















































ずっと、ずっと、ずっとずっとずっと





















夢にしか出てこなかった





















・・・てっちゃんが・・・























































てつやはポケットに手をいれて

お酒が入っているせいか小さく鼻歌を歌いながら

あの長い足で

私に合わせて、ゆっくり、ゆっくり、歩く










私は手にもったハンドバッグを

無意識に力いっぱいに握りしめて

てつやに聞こえないように泣いた

しゃくりあげないように、こらえながら、泣いた



























































































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