冷蔵庫の中の甘い夜




















マンションに帰ると


自分の部屋には電気がついているのが見えた








「・・・千草だ。」








相当の体の疲れからか


恋人の訪問にも溜息が漏れてしまう





俺ってダメな男


どうも気がまわんねえんだな


自分で精一杯になってるとよ


どうしても私生活が裏になっちまうんだな




待たせてたことに責任は感じるけど


ひとりになりたい時だって


そりゃ俺にもあるさ









「おかえり!」





ドアを開けると千草はすぐに玄関まで走ってくる





「お前また来てたの。」


「うん。待ってたの。あのねっ・・・」


「鍵くらい閉めろ、あぶねえから。」


「・・・ごめん。」








千草の声色が曇るのが手にとるように判る





あぁ・・・


今のはキツかったよな


ちょっとした口調まで気を使うほど余裕がないし


悪いと想っても「ごめん」の一言は出ない





千草の横をすり抜けて奥の部屋へ向かう


後ろからついてくる千草




いつもなら可愛いと思えるクセも


今では少し、重い











「てつや、あのねっ・・・」





それでもはしゃいで話し掛けてくる千草の声を遮る





「わりぃ、お茶煎れて。」


「・・・・はい。」








明らかに遮られていることに気付いて


千草の声は更に曇る











部屋を出てキッチンに入る千草の背中を見送って


大きく溜息をつく




ベッドに勢いよく腰をおろす






「はぁ〜〜〜〜〜〜っ」






何をやってんだ、俺


千草に当たってどうすんだよ


別に仕事でなにかあったわけじゃない


ただ疲れてるだけだろ?


アホか・・・





シャツを脱いで


上だけ裸になって


もう一度、溜息


そのまま背中からベッドに倒れこんだ








目を閉じる











少しだけ千草の香りのついたシーツ





そうだ


昨日も千草はうちに泊まったから








今日も泊まりか?




だよな?




もう11時だし




帰れねえよなぁ




















「てつや?・・・お茶入ったよ。」


「・・・ん。」





ドアから少しだけ顔をのぞかせる千草


不安そうな顔





いつもならそんな顔をされたらすぐに


「さっきは悪かったな」ってな


言えるんだけどな


今日は・・・なんでかな





言えねえんだ




「・・・今行くから。」


「・・・うん。」







ドアを少し開けたまま千草はそこを去ろうとしない







「・・・すぐ行く。」


「・・・うん。あの・・・」


「なんだよ?」


「・・・お茶、冷めちゃうよ。」


「は?熱いの煎れたのお前?」


「あ、ダメだった!?」


「・・・・ったく。」


「ご、ごめんね。」


「いいよもう。飲むから。」


「ごめんね・・・」


「いいって。」


「あのね・・・」


「いいっつってんだろ!あっち行ってろよもう!」


「っっ・・・」











しまった・・・











「・・・・」














嫌な沈黙














あぁもう








今日は本当、ダメだ






俺って奴は























「・・・わりぃ。」


「・・・ううん。」





千草の返事は消え入りそうだった


明らかに怯えていた








「・・・ほんと、わりぃな。こっち来いよ。」


「でも・・・」


「来いよ。ごめん。」





ベッドから上半身だけ起き上がって座り


千草を手招きで呼ぶと


初めはためらったが千草は部屋に入ってきた





近くで見ると千草の瞳には少しだけ


少しだけ涙がたまっている











「・・・ごめんな。」


「・・・」











首を振る千草の細い手首をそっと掴む


ベッドの自分の隣に座らせると


俺は何のためらいもなく彼女の背中に両腕をまわす











少し強すぎるほどに抱きしめて、抱きしめて





千草の不安を取り除こうと思った





いや、自分自身の晴れない気分を転換しようと





してただけだったのかもしれない










あぁ、きっと・・・そうだ








「てつや、イタイ・・・」








千草は腕の中で少し身動くが俺はそれを許さない














愛しい女を両手に抱いて


気分がちっとも晴れないなんて


今日の俺は本当にどうかしてる














いつものように



腕をゆるめて



顔を少し傾けて



伏せ気味のお前のまつ毛に



見とれながら



溶けるような甘いキスを



あずけて















何が違う?



「・・・っ」



何かが違うんだ



「・・・てつっ」



悪いと思っても



「イタイよ・・・ねぇっ」















・・・・―何でかな。























「いやっ!!!」







両腕を思い切りつっぱって



俺を拒否する千草










彼女の胸元はいつもより



大きく開いて



自分のつけた赤い痕の濃さに



少し驚く











「へん・・・今日てつや変。」





はだけた胸元を戻しながら


涙声で千草は俺から逃げるように


起き上がって部屋を出ようとする











「・・・てつや。今日、なんで私が待ってたか、判らないの?」


「・・・?」


「・・・」









何を言ってるんだ・・・??











「・・・判んないよね。・・・ごめんね。勝手にはしゃいで、バカみたい。」











千草は足早に部屋を出て行った














あいつは何のことを



言ってるんだ?




















「待てよ、今から帰んのかよ!?」


「帰るよ、離して。」


「何怒ってんだよ!」


「てつやこそ何怒ってんのよぉ。何で機嫌悪いのよ・・・今日に限って・・・」


「だから今日がどうしたんだよ!何か忘れてんなら謝るよ、言わなきゃわかんねえだろ!」


「・・・離してってば。帰るんだからっ。」


「バカか!こんな時間に帰せるわけないだろ!」


「ここにいたらてつや、する事しか考えてないもん。」


「っ・・今のはちょっと乱暴だったよ。もうしないから!」


「そういう問題じゃない。」


「じゃあどういう問題なんだよ!?」


「もういい!わかったよ、帰らないから離してよぉ!」








俺が手を離すと千草は一目散にさっきの寝室に駆け込んで


ドアに鍵をかけてしまった




















部屋が静まり、そのうち千草の嗚咽が聞こえてくる

















「・・・なんだよ」





意味わかんねぇよ


千草は一体なんのこと言ってるんだ?


ひとりで、はしゃぐ???











何を・・・
















ブツブツ独り言を言いながら


キッチンのテーブルに座る






































ころころころ、








コンっ





























「・・・??」











何かが転がって





落ちる音











何気なく床に目をやると





そこにはピンク色の





細く、小さな、小さな、





ろうそくが落ちていた



































「・・・・・・」












































背中に汗をかく





それは一般的に言う





冷や汗というやつに





間違いなかった

















そのろうそくが一般的に


何に使われるかくらい


俺にもすぐに判った





見てすぐに


千草の涙も


今日という日が何の日かも







それは嫌というほど


思い知らされた

















ガタっ








イスをぶっとばして


冷蔵庫にかけより


ふたを開けて


そして







俺は、その場に崩れ落ちた


























ぎゅっと目をつぶる





拳を握る





歯を食いしばる





耐え切れなくて両手で顔を覆う


























冷蔵庫の冷気が裸の上半身に






ひんやりと障る




















「・・・・馬鹿かよっ・・・俺は。」

















普段ほとんど何も入っていない




俺の部屋の冷蔵庫

















今日はなんと華やかだろうか







柔らかい生クリームの香りが鼻をつく




















数日前の会話が鮮明に蘇る





     「誕生日にケーキとかもう何年も食べてねぇな。」


     「ほんとに!?」


     「おう。ずっと一人暮らしだしな。」


     「じゃあ来週の誕生日、作ってあげようか?」


     「お!マジで!?」


     「あ、てつやでもそういうのって嬉しいんだ??」


     「何だよそれ。そりゃ〜嬉しいって。あれだろ?チョコの板に『てっちゃん誕生日おめでとう』とかってな。」


     「書いたげる!ろうそく32本?」


     「いいなそれ。」




















『てっちゃん誕生日おめでとう』





























それは、どう見ても







千草の字だった





























コンコン、、








「千草。」





「・・・」





「ろうそく32本も立たねえよ。」





「!!!?」





「ろうそくは諦めたからよ、食おうぜ。ふたりで。」





「・・・てつ」





「ありがとう。千草。・・・めちゃくちゃ嬉しいわ、今。」











ドアのすぐ向こう側に千草の気配を感じるが


彼女は何も言わない











「千草?出て来いよ・・・な?」





「・・・」





「千草?」











「・・・HAPPY BIRTHDAY・・・てつや。」
































千草の作ったケーキは甘くて



甘くて







ふたりじゃ食べきれないけれど





俺はそれを





何日かかってでも





絶対に食べきってやる、と











本気で思った


















村上てつや様***お誕生日おめでとうございます。

世界がこんなに溢れているということを
わたしはあなたに出会って初めて知りました。
大袈裟だと人は言うけれど
あなたには出会った事もない人間をも世界に引き込む
そんな多大な力があるように思えてなりません。
力を持った人間は、世界を探せばたしかにたくさんいるけれど。
私がはじめて出逢ったその人物はあなた、ただひとりです。

これからも、いい音楽、いい世界を持って
坂を登り続けてください。
わたしは、いつもあなたの背中を見て頑張りたい。


※ページを閉じてください。

PHOTO by[ Sweety ]




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