真っ黒な鯨



















目が醒めた







違和感を覚えて


頬に指をやると


右頬が濡れてる










「・・・なんだこれ。」





指でつたうと


俺の右目に辿り着く













・・・涙?




涙か?


涙だって?


いや、違うだろ














夢を見ていたようだけど


覚えてはいない





夢を覚えていないのは


俺的にはいつもの事









よほど楽しい夢がおかしな夢じゃなきゃ





覚えてることなんてほとんどねぇ

















完全に蒸し上がった部屋


首筋にはべっとりと汗をかいて


息苦しささえ感じる









「あ、っちぃな・・・もう。」


独り言







夏には独り言が増えるんだ














汗と一緒に今、頬をつたっていた


「何か」を拭う








布団を勢い良く投げ飛ばし


床に転がったあらゆる物を足でどける


向かうは冷蔵庫






「・・・あった。」










昨日仕事帰りにコンビニで買った


ミネラルウォーター


残しておいてよかった







残りを一気に飲み干すと


もはや分別のブの字もなくなった


ワンタッチのゴミ箱に


ペットボトルを突っ込む













洗面所まで行かずに


キッチンの水道で顔を洗って


目の前の窓を開けると


一斉に蝉の鳴き声が部屋に侵入して


俺は思い切り眉間に力を入れて


険しい表情を作ってみせる














「腹減ったなー・・・。」




さっきの冷蔵庫を開けても


入ってるのは


マヨネーズ・牛乳・卵2個




・・・それと?何だコレ?










・・・あぁ


黒沢が持ってきて置いてった


カレーの材料だ





ったく・・・


置いてくならも一回来て作ってくれよ







まぁこんな夏日にカレーは勘弁だけどよ










「・・・・」




冷蔵庫の冷気を浴びて


しばしぼんやりする







ピーッ


ドアの警報機が鳴ったので


しぶしぶ冷蔵庫を閉じる













「・・・あっちーなぁ。」



ぼそぼそと何度も独り言を呟く








足の指で扇風機のスイッチを押して


首振りのスイッチも足で押そうとしたら


バランスを崩してベッドに尻餅をつく











「・・・いって・・・」




なんとなくそのままベッドに横になった























扇風機がちょうど自分の足元に当たって



少し気分が楽になる






・・・何やってんだろ、俺














首をひねって部屋を見渡す


壁に無造作に貼った外国人歌手の切り抜き


真っ黒な顔で笑った男達




CDラックには色とりどりのCDが並ぶ


もうどこにどのCDが入ってるかもわかんねぇ


一度整理しないとな・・・















そして






部屋の角には


大きな椅子







その隣には


もうカーテンすら開けない


小さな窓









何故かその窓だけ


縦に開ける古い型の窓だ























今日がオフでよかった








こんな暑い日に外には出れねえし




あの椅子と窓に目がいってしまった日は




一日何も手につかないんだ






































さっきの右頬に指を持っていく


すっかり乾いた「何か」


顔も洗ったのに


何かが頬に感触として残って


心なしかジンジンと脈打つ







何かを


警告している





朝頬を伝っていたアレは




一体なんだったんだろう





























いつもその椅子に座って




髪をいじっていた貴女 -アナタ-







いつもその窓を開けて




のびをして陽を浴びていた貴女 -アナタ-














俺がこんな思いで


今もこの部屋でへたれてるなんて





貴女には知られたくない






































扇風機が




今静かに首を回して




部屋中のものを揺らす
















































バタバタバタバタッ










一番大袈裟に音をたてたのが


ベッドの真上の壁に貼ってあるカレンダー







寝そべったままで見上げると


風に揺られて12月のぺージまでめくれて


こちらを覗いていた

























































扇風機の風が遠ざかって













ゆっくり・・・
















今、ゆっくりそれは時を逆戻り





現実に近づく・・・・・・































11月・・・10月・・・







9月・・・・・・・そして























































「・・・あ」



















































































朝起きて右頬に流れていた





あの警告









































「涙なんかじゃ・・・ねぇよ。」




























夏は独り言が増えていけねぇ












































「そっか・・・・八月、四日、か。」







































立ち尽くす・・・どんな嘘でもいいの・・・
僕はまた目をつぶる・・・諦める事ができない・・・
はい。こんにちは。村上氏作品です。
皆さんお気付きかとは思いますが、ゴスペラーズのある曲をイメージしています。
未練がましい表現は使いたくなくて、なんて事のない日常の動きで描写を助けました。
最後の独り言で、彼はやりきれない朝の真相がわかる。
涙なんかじゃ、ない。誰も見ていないのに強がってしまう所が独りの寂しさです。
夏がくる度に。8月4日が来る度に。彼は泳ぎ続けるんです。
海は今、静かだけれど。悲しいね、悲しみは、悲しみを。
君のせいだけれど、僕のせい。
消える事のない未練をひきつれた、真っ黒な鯨です。


2003.08.04 PM13:55

※ページを閉じてください。

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