W O R L D .




























2000.9





ダメなんだよな最近

俺ちっとも優しくない



仕事が終わっても メールの一本送ってやる余裕もない



時間に余裕はある



気持ちにないだけだ













仕事に多少の不安がある時期

ようやく俺たちの名前が知れ渡り始めて

でもまだ定着はしていなくて

ここらでもう一発くらいいい曲出しとけば

忘れられることはないだろう





時期的にそういう時期だ









次に出す曲は決まってる



3年間煮込んできた最高のアカペラ曲

多少俺の私情も入ってはいるけど

人間が作る音楽なんてどれも

多かれ少なかれ作った人間の味が出るものだ

すこしの甘さと鋭さと悲しさがつまった

極上のラブソング

大ヒット間違いなしのあの一曲







でも…カップリング曲が決まらない

カップリング曲とは難しいもので

表題曲がよければいいほど冴えなく聴こえてしまうもの

どの曲を聴いても「いい」アーティストでいたい

1曲目だけ聴いて棚の奥にしまわれてしまうアーティストにはなりたくないんだ

極上の一曲、と共に、極上の一枚にしたいんだ

















ほらな。




仕事が終わっても仕事のこと考えてやがる



俺としては家に帰ったってこうなんだから

「仕事終わった」なんてメールも電話もできねぇんだよ





俺はテレビをつけっぱなしにしながら

新曲のことと彼女のことを交互に考えていた



テーブルの上には数枚のCDと譜面と灰皿とタバコと

ミネラルウォーターと、携帯電話



どれを手に取ろうか迷っているうちに

また後ろのソファにもたれかかる









あー…なんか気持ちいい





このまま寝ちまいそうだな





ま、いっかぁ…

















































俺はその夜夢を見た





最初は真っ暗な夢

風ばかりが吹いていて視界は真っ黒

体がいやに不安定でゆれている

風にすこしでも吹かれれば体が反転してしまう







俺は思い切って体を180°回転させてみた













そこは、夜の東京の上空だった



それまで見ていた真っ暗は夜空だったのだ

俺は東京タワーのちょうど斜め東上を飛んでいた

夢は夢だから

俺は大して驚かずに飛行を続けた

風はちょうど生ぬるいくらいで心地よい

久々に開放的に気分になれて

俺は鼻歌でも歌いたい気分で飛び続けた





夢というのは不思議なもので

できもしないことを次々としようと思う



地上を見下ろして目をこらすと

俺はちょうど位置的に彼女の家の真上にいるらしかった

「メールするより会いに行った方がいいな」

夢のなかでもメールのことを考えているとなると

俺は相当彼女への連絡を気にかけていたんだろう









俺は頭を下に向けて一気に降下していこうとした

下へ降りれば降りるほど、彼女に会いたくなる気がした

玄関先で驚くお前に、俺はなんでもないように

「来ちゃったよ」って言うんだろうな





























しかし、何かが変だった





何かがおかしい









「・・・あれ?」







体が一向に地上に近づかないのだ

確かに風をきって地上に向かっているはずなのに

東京はちっとも近づいてこない

俺の目の前に広がる東京が、ちっとも狭まってこない

いつまでも広い、広い東京が輝いているばかり





























おかしい・・・おかしいだろう





このままで、俺はどうやって



彼女に会いに行けばいい?









俺は怖くなった













この広い東京を



俺は永遠にぼんやり見つめながら生きていかなければいけない気がした



そしてこの地上にいる彼女は



まるで俺の存在を知らないで他の男と結ばれるような気さえした



















いやだ



いやだ









俺は風をきって叫んでた









地上に戻りたい



彼女に会いたいんだ



彼女と出逢わせてくれ































この、











広い











東京の中で・・・

























































































































「・・・!!」










目が覚めた








部屋は相変わらず、テレビが流れていて



額と背中にはじっとりと汗をかいている







テーブルの上には数枚のCDと譜面と灰皿とタバコ



ミネラルウォーターと携帯電話











「・・・なんだよ。今の」





深く大きく、長いため息を一度ついて

ずり落ちた尻を持ち上げて座り直すと

携帯が点滅しているのに気づく

数分前にメールが着ていたらしい

開くとそれは彼女からだった





「おかえりてつや。お仕事終わった?



 待ってるのつまんないから私からメールしちゃった。



 すぐじゃなくていいから、手が空いたら連絡ちょうだい。」

















”おかえりてつや”





彼女は何気なく打ったであろうその言葉が



さっきまで東京の夜空に吸い込まれそうになっていた俺には



大きく、強く響いた

































あぁ・・・









帰ってきたんだ、俺





































俺はメールには返事を打たずに



すぐに彼女に電話をかけた













「もしもし」



「あ、もしもし?…ただいま。」





















































































俺にはやっぱり



一日のどこまでが仕事で、どこからが私生活かなんて決めることができない





彼女のことを考えていても、その日の夕飯のことを考えていても



最後には仕事の…音楽のことを考えている

















でも、それは決して他のすべてを疎かにしてるわけじゃないってこと



お前にはわかってほしいんだ

















俺の世界はすべて融合していて



音楽も、恋人も、食事も、眠りも、友達も家族も



どれもが大切で互いの一部なんだってこと







俺の中に生まれるすべてのものが



音楽にも、食事にも、眠りにも、友達にも家族にも、



そしてお前にも





影響を受けた何かなんだってこと































































































今夜は眠れそうにない







お前との電話を切ったら



















お前と東京の夜空にもらったこの一曲を書き上げよう









最高のラブバラードが出来上がるに違いない













タイトルは…

































俺は彼女の甘い声を聞きながら




そばにあった譜面の隅にこう書きなぐった



























「東京スウィート.」















































































































































この曲はやっぱり私の中でゴス代表曲です。なんでこんなに優しい曲が書けるんだろう。
最近てっちゃん作品ばっかでごめんなさい。てっちゃん以外は完全なるスランプ状態です。
やっぱりテツマニな私。G10参加後に期待しましょう…
ぜひ東京スヰートをBGMに読み返していただきたい一作です。
本当にこういうインスピレーションで書いてる作品があったら素敵ですよね。
彼らに曲が降りてくる時ってどういう瞬間なんでしょうか。
ていうか作曲ができる人の頭の中を一度のぞいてみたい。

















photo by[grateful days]



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