13:25 Sunday.








ばたんっ


「・・・っつ〜」
ベッドからすべりおちて
床に叩きつけられた肘をさすりながら
一緒に落ちた枕をひろって起きた

カーテンからは文句なしの日差し
無遠慮に部屋をあかるく照らしだす

ものすごい寝汗をかいているのにも気づく
そろそろ布団、うすいのに変えなきゃな・・・




「ん」


どうやら俺が起こしたのはこれらしい
床にころがった携帯が
ヴー、ヴーとひくくバイブってる

「なんだよ、はいはい・・・」

休みの日にかけてくるのは・・・
まぁあいつぐらいだな

半分賭けだったけど
めんどくさかったのもあって
俺は発信元をたしかめずに電話にでた



「もしもーし」

「あ、てっちーおはよー!」

「誰がてっちぃだ誰が。」


こいつは放送禁止のあだ名をいくつ作れば気が済むんだ
俺の顔でてっちーなんて誰も呼ばねーだろ


「あれ。”おはよう”につっこまないって事は今起きた?」

「どゆ事?」

「だってもう昼過ぎだもん。」

「・・・何の用?」


言われるのと同時くらいに時計を見る
確かに時計の針は1時25分をさしていた
休みの日くらい死んだように寝かせてくれよ
まぁ、そんな事してたら好きなこともできないけど


「遊びにいっていい?」

「遊びに?何しに?」

「遊びに。」

「・・・いいよ。」


こいつにはいつも単純に言葉遊びにはめられるんだ
たとえば混乱させてやろうと難しい事を言っても
単純にかえされると逆になんにも言えなくなる
もしかすると、こいつはめちゃくちゃ頭がいいのかもしれない


「いいの?じゃ服着といてね。」

「なんで俺が脱いでると思うよ?」

「服着てるの?」

「・・・脱いでる。」


確かに俺は楽なジャージの下しかはいてない
寝るときはたいていそうだ
言い当てられて悔しいけれど
それでも服を着て寝ようとは思わない
楽なものは楽、なんだから










ピンポーーーん


長ったらしいインターホンの鳴らし方
あいつの他にはいない

返事をしなくても
アポをとった後ならあいつは勝手に入ってくるから
俺は返事をしないで適当に部屋を片づけた
夏らしい色のTシャツにGパン姿のあいつが
堂々と部屋にあがってきて俺を見つける


「ちょっと、いるなら返事してよ〜。」

入ってきてすぐに
立ち止まってふくれっつらで俺をにらむ


「だってお前しなくても入ってくんじゃん。」

「返事がないから死んでんのかと思って入ってくるんじゃん。」

「それならもっとおそるおそる入ってくるとかさぁ・・・」

「わかった。次からそうする。」



いや、そうされても困るけど
・・・まぁいっか



「ごはん食べたの?」

「いや。お前の電話で起きたもん。」

「何食べる?」

「作ってくれんの?」

「いいよ別に。」

「あーでも冷蔵庫に何にも入ってねぇや。」

「やっぱりね〜そうだと思って買ってきてよかった・・・」


あいつはぶつぶつ言いながらキッチンに消えていく
俺は片づけるのに飽きてベッドに転がった
まぁ、汚い部屋なんて見慣れてるしな
今更かざることも何もねぇし



「また寝るの?てっち!」

「てっちって言うな!」

「てっち寝ないで!」

「てっちって言うな!」

「寝るなー!」

「わぁった、わかったから。寝ねぇよもう・・・」


さすがに人が来て寝てるわけにもいかねぇよな
いくらそれが、気心の知れた恋人だとしても
恋人だからこそ寝てられない、ってのが普通なのか?
まぁ俺は恋人だからって特別は求めないから
要は相手との空気を保てれば俺はそれでいい



「何作んの。」

「オムライス食べたい?」

「・・・」

「食べたい?」

「オムライス作るつもりなんだろ?」

「うん。」

「今日は他のは作れないんだろ?」

「・・・うん。」

「いいよ。オムライス食べたい。」

「じゃぁ、待ってて。」



見慣れたと言えば見慣れたけど
なんだかんだ言って
こいつの笑顔にかなうもんはない、って
やっぱり思えるから休みの日で眠くても
会ってられるんだろうな




「スーパーで買い物してたの。」


キッチンからすこし声を張って話しかけてくる
それに俺も、つけたテレビの音をおさえながら
すこし大きな声で答えた


「あぁ。」

「何作ろうかなって考えながら歩いてたらさ、すごいオムライス食べてるてっちゃんが浮かんだの。」

「ふ〜ん。すごい食べてんの。」

「うん。すっごい。それでね、卵しか買ってこなかったわけ。」

「あらそ〜。」


言い訳のつもりで言っているのがわかるから
俺もあまり気にとめない感じで返事をかえす
俺はオムライスだろうが、何だろうが
なんだって別に作ってくれりゃ食べるのに


「なんか、やることないの?」

キッチンに顔を出しても
あいつは俺をあっさり追い返す
何か作っている最中のキッチンには入ってほしくないそうだ
そういえば黒沢も、言ってたな
「そういう人はいるね、確かに。俺は気にしないけどな、あはは」
とか、なんとか・・・



「ないない。あっち行って。」

ほらな。









「もう夏だね。」

オムライスを3口目に頬ばった時に
あいつが言った
俺は口にいっぱいに入れたまま
「ん」とだけ返事を返しとく



「朝暑いもん。てつやが脱いで寝たくなるのもわかるよー。」

ちょっと飲み込むのに苦労しながら俺が

「じゃあ脱げば?俺はかまわねえよ?」

と言うと、

「もう。」と笑うので

俺もははっと、軽く笑ってやる



「おいしい?」

「ん。んまい。」

「そう。」


ほおづえをついてふわっと笑う
俺はそれを直視したくて、できなくて、
オムライスの次の一口に挑む
海岸にでも飛び出ていって叫びたくなるのは
こんな時だ



「食べ終わったらキッチンね。」

「あい。」


そう言い残して
あいつはからからとベランダを開けて出た
外の風に当たるのが好きらしく
いつも天気のいい日はあそこで空を見てる
きれいに染まった髪の色と
空の青と、真っ白のカーテンが
一枚の絵みたいに俺の脳にインプットされる


このまま一曲かけそうなくらい
タイトルは・・・
初夏の午後・・・
白いカーテン・・・
ベランダ・・・
オムライス?んなバカな。



あれこれ考えてるうちにオムライスは終わった
用意された冷えた水を一気に飲んで
イスに任せてのびをする
食った食った、うまかったなぁ


言われた通りキッチンに皿を持って行こうと
イスから立ち上がって
ふとベランダを見る




「・・・?」



青い空、白いカーテン
完璧な午後の風景のはず
そこに、あいつの姿がない


そこにいたはずの、彼女









・・・がたンっ




俺はイスをぶっとばして
ベランダの半分開いた窓にとびついた






「びっくりしたぁ。どうしたのてっち。」



窓を思い切り全開にしてベランダをのぞくと
あいつはただしゃがんでミントに水をやっていた
目を見開いて俺を見上げて
「いなくなっちゃったかと思った?」と





笑った
























丸くちいさくなっている彼女のとなりにしゃがんで
「いなくなったと思った」
と、小さな声でつぶやくと
「いなくならないよ」
と、彼女も小さな声でささやいた




夏のはじめのゆるい風がふいて
ミントの葉を揺らす

今日彼女が部屋にきてから今までの会話を
頭のなかでゆっくり描く

ひとりで寝てるより
断然色あざやかな日になったことは間違いない



「今日の晩めし、なんか食いにいこうか。」

「うん。」

「ひさしぶりにゆっくりしようぜ。」

「なに、珍しいじゃん。」

「ん。」





横を向いたら彼女の顔が思ったよりも近くにあって

俺たちは、夏の陽の下で

自然で、短い、

キスを交わした




























ひさしぶりに、何か特別なものではなく小さな生活の一部を書きたくなった。
サイト開設当時は、こんなのばっかり書こうと思ってたんですよ本当は。
でも、時間が経つにつれて自分にも作品にもやたらと色気が出まして(笑)
こんな毎日を大切にできる人間になりたいって、ずっと思ってたんです。
初心に戻って、日常にある幸せを見つめてみようと思っています。



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