一瞬の恋







一瞬だけのぬくもり

それは忘れてしまいそうなほど

儚くて

小さかった





もう


この手につかむことは

できないよね








「じゃ、お邪魔しました村上さん。」
「おぅ、また来いよ。」
「じゃね、てつや。」

大学のサークルの
大先輩の部屋で
今夜は一杯やってしまった


なんか気に入ってもらえたみたいで
すっごく嬉しい
最初めちゃくちゃこわかったから





「安岡くん、家どっち?」
「ん?あ、俺、こっち。」
「あ、一緒だ。」



やったね

今日その先輩の家に行ったのは
僕だけじゃない
同じサークルの先輩で
さんって人



村上さんとは彼女は仲が良くて
結構一緒にいるみたいだ
つきあってるのかな?っていう
噂もあったけど
飲みながらさりげなく聞いたら

「んな訳ねえだろ。」

と、村上さんに軽く流された



そっか・・・

違うんだ







さん?」
「ん?」
「ほんとにつきあってないの?」
「え?」
「村上さんと。」
「あぁ、つきあってないわよ。」
「ほんっとに?」
「どうして?」
「だって、いつも一緒にいるしさ。みんな言ってるよ?」
「もう・・・やだな、みんな。全然そういうんじゃないよ。」
「・・・そっか。」



夏のはじめの
かすかな虫の声が鳴る
風のない道を
ふたり、街灯に照らされながら歩く


先に口を開いたのは彼女だ






「わたしが、勝手についていってるだけよ。」


流そうと思えば流せたような言葉

・・・それって、まさか


「彼には、ちゃんと思い続けてるひとがいるの。」






それだけ言うと
彼女はゆるみそうな瞳を
俺から隠すように
外を向いた


ゆっくり肩でためいきをつくと
涙に耐えた頬がゆれた






















「・・・っ、安岡くん!」




僕は

彼女に抵抗させない程度の力で

彼女を抱きしめた









「・・・叶わぬ恋?ってやつ?」




僕の胸の中で

彼女がすこし反応する







「一緒だね、さん。」













僕は最後に

もう一度だけ腕に力をこめると

彼女を解放した



呆然としたままの彼女

こんな唐突な告白は

今までにされたことがないようだ





でも・・・よかった


涙はひっこんだみたいだ






「がんばってねさん。さんならまだまだ頑張れるよ。」
「・・・でも彼には」
「大丈夫!今、俺の勇気あげたから。」
「勇気?」
「そう、今のが、俺のめいっぱいの勇気。」



少し笑った

あなたには、やっぱり笑顔が一番だ






「俺はもう頑張れないや。あんな大先輩がライバルじゃさ。」
「・・・ごめんなさい。」
「いいよ。行く?」


僕は親指で
今来た道を・・・村上さんの部屋を指差す


「え・・」
「行ってこれば?今から。俺の勇気が冷めないうちに。」





彼女の瞳が
街灯に照らされて輝いて

次の瞬間
最高の笑顔をくれて頷いた




























あーぁ


気付いた途端に失恋か



ま、時間をかけて熱く育てる恋もいいけど

こういう瞬間燃焼型もいいかもな





街灯に照らされた

彼女の後姿を見つめながら


さっきの彼女を抱きしめたときの

一瞬のぬくもりを

思い出さないふりをしながら

思い出していた







「勇気とはまたクサイ事言っちゃったな。」

心の中で呟きながら


最近友達になった

北山って奴でも誘って

うまい酒でも飲みにいこうかな






























一瞬だけのぬくもり

それは忘れてしまいそうなほど

儚くて

小さかった








僕は忘れない


夏のはじめの


一瞬の恋
























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安岡氏作品。
絶対叶わなくても、言ってしまいたい気持ち。
ここで言わなかったら、一生言えないっていう気持ち。
安岡さんならやってくれるんじゃないかってことで。
これができなくて、悩んでる日本男児は多いんじゃないか?

※ページを閉じてください。

PHOTO by[ 創天 ]

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