残照























ごめん・・・


俺のこと、忘れてくれ・・・
















































ゆるやかな曲線がはじめに視界にうつる

それは枕元のカーテンだった

ピンク色にまだ弱々しい光がさしこむ

透き通ったピンクのこの色が、わたしは結構好き



首の角度をかえて時計に目をやると

AM6:05

起きなければいけない時間

誰か手を引いて起きあがらせて、と

わたしは毎朝思うんだ






まだ肌寒い早朝

ベッドからおりると、まっすぐにキッチンに向かった



椅子にかけてあるうすいベージュのカーディガンを羽織って

ポットのお湯を沸かす

毎朝使うマグカップと、お気に入りの紅茶

一度鏡をのぞきこんで、今日の顔色で体調をうかがう



今日は大丈夫、かな









今の今まで見ていた夢のことを考えないように

わざと素早く朝の身支度をする

そんな自分にももう慣れて













もうあの夜から





10年のときが経っている





















RRRRRRRRRRR



けたたましく携帯が鳴り響く

鳴っているのは寝室のベッドサイド

アラームが鳴るには中途半端な時刻

こんな時間に交信をとろうとするのはただ一人




『 着信中     浩二 』







「もしもし。」

「あ、もしもし、おはよ。起きてた?」

「起きてたよ。」

「うわーまた負けた。」

「今起きたの?」

「うん、昨日メール返せなかったから電話してみた。」

「あぁ・・・いいのに。メールくらい。」



昨夜も、わたしの方が先に仕事が終わって

いつもなら浩二をすこし待って、一緒にごはんでも食べて帰るのに

わたしはやたら疲れていて先に帰宅したんだった



『さきに帰ってます。終わったらとりあえずメールして。すごく疲れたから寝てるかもしれないけど・・・。』



というメールを送って会社を出たのを

今思い出した





「いや、お前メール待ってたかなって思って。俺も昨日疲れててさ。」



わたしよりマメな浩二は

いつもこうして、わたしの思っている倍以上のものを返してくれる





浩二のくれたものをわたしはいつも持て余していて

それでもそれは、誰もがうらやむ安心感と、幸福で

わたしはいつも、その両方との間にすっぽりとおさまっていられた







浩二とは社内で知り合って

出逢って半年でつきあいはじめた

もうすぐふたりで過ごす2度目の浩二の誕生日がやってくる



大きくて、少年みたいな大きな目をしていて

笑うとイヌみたいな顔になった



時々愛しくて愛しくてたまらなくなって

このひとがたとえば手のひらに乗るくらいちいさければ

いつもポケットに入れて歩けるのに、とか

このひとがたとえばわたしの前でしか喋れなくて笑えなければ

どんなにか満足感を得られるだろう、とか

どうしようもないことを、考えた





あえて不満をあげるとすれば

浩二は残業が多くていつも待たされることくらいで

そんな事はふたりの間の何の問題でもなかった

待てなければ昨夜のように先に帰ればいいし

先に帰ったとしても、今のように浩二は必ず連絡をくれた





















いま、この幸せを、壊したくないと思う










































だけどわたしは、浩二からどれほどの愛をもらえば



残照のように残るあの夜の光景を



消すことができるんだろう

























































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