切なさのワケ























カラン カラン



「こんばんは。」



漆黒の木製の扉をひらくと

まだ開店していないその店内には

今夜もあの世界が広がっていた



目にみえない、しっとりとした空気が漂うその店で

これからどんな出会いが待っているのだろう、と

おさえきれない気持ちがこみあげてくる























ちゃん。いらっしゃい。」


カウンターの向こうから声をかけられて振り向くと

すこし浩二に似た笑顔で、こちらを見ている中年の男性

浩二のお父さんだった



「こんばんは。よろしくお願いします。」

「ちょうど人を雇おうと思ってたとこだった。ありがとう。」

「そんな、こちらこそ。お役に立てるならいくらでも使ってください!」

「あんまり無茶をさせると浩二に怒られるからな。」



しずかに喋るそのひとは

ふわりとほほえんで、グラスをならべはじめた





まず何をしようかキョロキョロしているわたしに

浩二のお父さんは



”まずは座って、コーヒーでもいれるから。今日流す音楽を選んでくれるか。”と言った

”客がきても座っていたらいいよ

おもしろい話を聞かせてくれる客が多いから

いそがしい時以外は座って話を聞いているといい”



こんな楽な仕事をしていいのかしらと思ったけれど

立っていたってやることはまだわからない

せめて今日最初のお客さんがくるまでは、お言葉に甘えて座っていることにした





テーブルのわきに積まれたCDを一枚一枚、タイトルやジャケットを確認しつつ

気になるものは、客からはみえない黒色の小さなオーディオで店内に流したりした

どれもこれもJAZZばかりで

サックスやピアノ、トランペットやドラム

ゆるい音が漂って、感じたことのない心地いい気分にさせてくれる





仕事でつかれた体にきれいに染みこむように

音はわたしの体を包んでくれる

でも、その心地よさは決して眠くはならなくて

それは、どの曲にも刺すような悲しみがこもっているからだと

わたしは本能でわかった気がした









・・・・・・・こんな感覚、どこかで















































浩二のお父さんがいれてくれたコーヒーに口をつけながら

すこし、すこしだけ、目を閉じてみる



どこかに悲しみの刻まれた音楽

それは、癒えない傷を負った者にしか聴きわけることはできない

本当に愛するひとと引き裂かれた

あの涙を流した者にしか





単に、きれいだとか、美しい音色だと言うことはできても

この音を悲しい音だと感じる人間は

一体どれくらいいるんだろう・・・













「あの・・・」

「ん?」



浩二のお父さんは振り返るけれど

なんと呼んでいいのかわからずにわたしは困惑する



「・・・あぁ。名前か。お父さんと呼ばせるのはちょっと図々しいな。カツって呼べ。勝俊のカツ。常連の客はみんなそう呼ぶ。」

「カツさん?」

「なんだ。なんか言いかけてたな、今。」





わたしはコーヒーカップを置いて

すこしためらった後に口を開いた









カツさんなら、わかってくれる気がした









この店にいるときの、切なさは


あの人を想うときに、よく似てるから・・・



































「カツさん。癒えない傷って、ありますか。」



























一瞬手をとめて、わたしを見据えたカツさんの目に


かすかに力がこもったのがわかった









「癒えない傷?」















































































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