自己紹介















「きたやまさんって変わってる。」



僕がいれた紅茶を一口飲んで
彼女はとても落ち着いた声色でそう言った


「普通こんな小娘に泣かれたら面倒になってさっさと帰るよ。」





ずいぶんと投げやりなことを言うんだな、と思ったが
肩をすくめて、すこし微笑むだけにしておいた

やさしいのね、と言われるよりも
変わってるね、のほうがよっぽど気が楽だ





「ごはんは食べたの。」
「・・・食べてないです。」
「そう。じゃあ何か作るよ。鶏肉は食べれる?」
「え・・・」
「あ、だめ?じゃぁあとはラーメンか、それとも・・・」
「あの!」


彼女はそう言って、テーブルに紅茶のカップを置いて
ソファから立ち上がる


「何?」
「・・・そこまでしてもらうわけには・・・」
「なんで?」
「もう遅いし・・・」
「大丈夫だよ、明日は休むんでしょ?」
「きたやまさんは?」
「俺は別に、大丈夫。」
「でも・・・彼女いないんですか。」
「あいにくね。」
「・・・」


断る理由がそれ以上思いつかないのか
彼女はおとなしくソファにふたたび腰掛けた



もう遅いし、か
たしかに



キッチンの置時計を見ると時刻は22:00過ぎ
そこまで親しくない女の子を部屋にあげる時間じゃないかもしれない

でもあのまま部屋に帰したって彼女はどうせ眠れやしないだろうし
僕も気になってベランダからアパートを見下ろしたり
携帯をひらいて、彼女のメモリを眺めては閉じたり
そんな落ち着かない夜をすごすはめになるのは目にみえてる

それに、もしも彼女が僕を警戒しているのならば
これ以上引き止めたら僕はホンモノの変態にされかねないが
今の彼女は警戒というよりも遠慮しているといったほうが合っている




僕がオムライスを作っている間
彼女はおとなしくソファに座って紅茶を飲み
てきとうにつけたテレビ番組をじっと見ていた

ときどき、脱いだコートのポケットからハンカチを出し
涙をぬぐうしぐさが見えたが
僕はそのすべてにとりあえず気付かぬフリをしておいた

僕がオムライスを作り終わってテーブルへ置いたとき
ちょうど10時からのドラマのエンディングが終わったところだった









「ドラマ、おもしろかった?」
「・・・あんまり。」
「そっか。僕も今のドラマは好きじゃない。」
「彼が好きだったから、見るクセがついちゃって。」
「・・・」



僕が返事をさがしていると
彼女は、すこし気まずそうな顔をして



「わぁ、おいしそう。いただきます。」


と、すこし無理はしているがあの笑顔を見せてくれた
僕も自然と彼女に微笑みを返してテレビを切った



突然静まり返った部屋で、僕がテーブルの向かいに座って
彼女が食べているのを見ていたら
彼女は照れたように、スプーンを置いた


「あの、きたやまさんのCD、聴きたいな。今、ある?」
「あるある。聴いてくれる?」
「うん。もちろん。聴かせて。」


立ち上がって、ステンレスラックのほうへ歩き出すと
彼女は安心したようにもう一度スプーンを手にとった

コンポにCDを入れて、playボタンを押す
すこし音量を下げて、しずかにそのメロディを流す



「すごい、ハモってる。コーラスグループなんだ。」

無邪気な笑顔で言う彼女のむかいに座り直して
僕はおもむろにCDケースを、彼女の前に置いた
もちろん、ジャケットには大きくグループ名
彼女は、それに目を落として笑顔のまま固まる













「・・・ゴスペラーズ?」
「そう。知ってる?」
「知ってる。・・・ていうか、あれ?え!?」
「え?」


僕は彼女の驚きようがおかしくて
わざと彼女の言葉を繰り返す


「え!?」
「え?」
「きたやまさんってゴスペラーズなの?」
「何を今更。」



都はスプーンを置いて
CDジャケットに写る僕と、本物の僕を見比べている

口はもぐもぐとオムライスを噛んでいて
けれどまん丸に見開いた瞳がかわいくてつい気持ちが弾む

僕はたちあがって、冷蔵庫から缶ビールを取り出して
彼女の前にどん、と置く









「じゃあ正体がバレたところで、乾杯でもしますか。」



























































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(c)君に僕のラストソングを


photo by <NOION>
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