ハタチの頃
傷ついた僕は一体どうやってそれを消化していたのか
どれだけ考えても思い出せなかった


時には酒を飲んだのかもしれないし、
趣味に打ち込んだのかもしれないし、
研究に打ち込んだのかもしれない
しかし思い出せたところで僕は彼女じゃない
彼女がどこへ行ってしまったかなんて
どれだけ考えたって答えが出るものじゃなかった





また今年も実家に帰れないまま年を越し
僕は凍えそうな朝や夜を、青森を思い出しながらかみしめた
外へ出かけるたびにアパートのあの部屋を見上げたが
彼女の気配はまったくなかった

そのうち仕事用のマンションに帰ることも増え
彼女を思い出す時間が減っていく
仲間と仕事をこなしていくうちに
思い出しても仕方のないことに気付く
友人と食事をしたり、酒を飲んだりしているうちに
はじめから何の関係もなかったのだと言い聞かせるようになった



今もし、彼女が過去を振り切ろうと努力しているのなら
僕はその忘れたい過去の一部のような気がして
もし街中で見かけても、素知らぬふりをされる気がする
それならそれで、仕方ない
そうやって、自分も大人になってきたんじゃないか・・・


それなのにどうしてそれがこんなにも悲しいのか




彼女を安心させてそばに置いておく方法なんていくらでもあったのに
遠ざけたのは自分で
その上、こんなに気にかけているのに
それが恋愛感情なのかどうかもハッキリしない


中学生でもあるまいし、僕という男はほんとに・・・









「バカな奴・・・」



つい、声になってもれていた
自分におどろいてハっと顔をあげると
てっちゃんが僕の顔をぽかんと見ていた


取材の約束10分前で
部屋に到着しているのは珍しく僕とてっちゃんだけだった


「バカって、酒井のこと?」
「え!?なんで?」
「あいつこないだも遅刻したじゃん。」
「あぁ・・・そうじゃないよ。自分のこと。」
「自分ん??」
「や、なんでもない。気にしないで。」


目をそらした僕を、まだてっちゃんが見ているのを背中で感じる
取材の待ち時間というのは、はっきりいって
とてもヒマなのだ


「何、なんかあったの。」
「別に。」
「お前が自分のことそんなふうに言うなんてはじめて聞いた。」
「・・・確かに、はじめてかも。」
「なになに、なんで?」


てっちゃんは口では興味本位のようにも聞こえたが
ソファを座り直し、目は案外真剣だった


時計をのぞくと、約束の時間まであと6分ほど
どうせ核心に触れるまえに誰か現れるだろうと踏んで
僕は切り出した




「てっちゃんはさ、ハタチの頃って落ち込んだ時どうしてた?」
「ハタチィ?・・・覚えてねぇよそんな大昔のこと。」
「だよね。」
「まぁ多分・・・歌うか食うかしてたんじゃねぇの?」
「歌うか食うかね・・・なるほど。」


あまりアテにならない答えだと思ったのが伝わったのか
てっちゃんがすこしだけひっかかりを覚えた顔をする


「なんで?」
「いや。どうかなって。」
「なんでハタチ?」
「・・・」
「お前まさかずっと前言ってた子とまだ会ってんの?」
「・・・会ってないよ。今は。」
「ふられたんか。」
「そんな関係じゃないよ。彼氏とは別れたみたいだけど。」
「あぁ〜それで彼女を立ち直らせたいわけだ。」
「なんか違うけど、まぁそれもある。」
「ほっとけ。」
「・・・は?」


てっちゃんはあっさりとそう言った
そろそろ誰か到着してもいい頃だが現れない


「他の男のこと引きずってるときなんか聞く耳もたねぇよ。仮にあっさりなびくような女ならイヤだろ?」
「彼女はそんな女じゃない。」
「それならほっとけ。問題の相手はお前じゃない、元彼だろ。お前が癒せる問題じゃないって。
 友達としてなら別だけど。男として慰めたいなら、まずは彼女が元彼を忘れてからなんじゃねぇの。」
「俺は彼女に好きになってもらいたくて悩んでるんじゃない。」
「じゃあ友達でいいんだな?」
「・・・」




33にもなってそんな簡単な質問に答えられないなんて
僕は一体どうしてしまったのか
というよりも
都という女は一体何者かと思ってしまう


友達でもなく、恋人でもない関係なんてこの世に存在するのか?
でも人と人の関係なんて、そんな言葉じゃくくれない
無限の係わり合い方があるんじゃないのだろうか

そんなこと、とうの昔からわかっていたことなのに
こんなにも釈然としないのは何故なのか?
僕は彼女を、どうしたいんだ?
もう、会えないかもしれない彼女を・・・





「ほっとけ。」


てっちゃんはもう一度言う
念を押すように、低く
だがなぜか僕は、すっかり頑なな気分になっていた


「何度もほっとこうと思った。俺達にはほんの少しのことで切れるくらいの関係しかないんだって。」
「・・・」
「でももし、ほっといて、それで縁が切れたらと思うといてもたってもいられなくなる。」
「そういうもんだろ。縁ってのは。」
「でも俺は・・・・・・」
「ん?」









ガチャ



「遅くなりました〜。」


取材班が到着し、そのあとから続々とメンバーも入ってきた
おそらくみんなでエレベーターから一緒になったんだろう


僕とてっちゃんの会話はそこで中断された
僕ののどの奥で待ち構えていた言葉は
声にならないまま宙に浮いて、さまよった












”でも俺は・・・もう彼女を忘れられないのかもしれない”




そう言ってしまうところだった。



























































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(c)君に僕のラストソングを


photo by <NOION>
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