突然のメール













僕がはげしく拓矢に共感したのはいうまでもない
彼に、まだ若かったころの弱い自分を重ね見た

こんなふうにみんな知っていくんだ
世の中には思い通りにならないことのほうが多いのだということを
一番大切なものほど、見えなくなるものだと
それは一度失ってみないとわからない
その後悔の痛みも、むなしさも

そしてそれが自分が大人になるために必要な痛みだったのだと
気付くのはずっと先のことで、若しくは気付けない人だっている

拓矢は、いつ、どのタイミングでそれに気付くのだろう







僕がいつしかそんなことを考え始めたある日
携帯に一通のメールが届いた
知らないメールアドレスだったが中身を読むと
それは都からだった


『都です。携帯かえました。登録よろしく。』


そんなそっけない用件だけだった
僕ははやる気持ちをおさえきれないまま
メール画面を消して、すぐに都のメモリを呼び出す
メールには書いていないが電話番号はかわっているだろうか
わからないがかけてみればわかる

僕は迷わず、通話ボタンを押した
つい我を忘れかけた







RRRRRR


「もしもし」
「も、もしもし」
「どうしたの?そんなに慌てて。」

ひさしぶりに話す彼女は、少し低めの声で
だけどなんとなく機嫌はよさそうだ

「ひさしぶりだね。」
「うん・・・」
「元気?」
「元気よ。」
「・・・そうか。」


もう会えない気がしてたから
なにを話そうなんて考えもしていなかった
僕は告白でもしようとしている中学生みたいに
口ごもって電話を握ってた





沈黙がひどく耳をつく
彼女が黙っているせいか、僕が切り出さないせいか
どちらが沈黙を持ち込んでいるのかわからない
でもきっと、彼女は僕の言葉を待っているだろうと言い聞かせ
こちらから沈黙をやぶる


「アパート、最近帰ってなかったでしょ。」


いきなり核心
こんなはずではなかったけれど
言ってしまった言葉は取り戻せない
僕は返事を待った


「バレてた?」

返事は意外と素直だった

「ずっと灯りが消えたままだったから。こわくて眠れないはずなのに。」
「あは、そんなのバラすんじゃなかったな。」
「心配したよ。」
「実はね、免許とりにいってたの。」
「免許!?」
「そ。車の免許。泊りがけの教習があるの。3週間合宿して免許がとれる。」
「3週間?もっと前からいなくなかった?」
「あぁ、試験は実家のほうで受けてたから。」
「学校は?」
「冬休み。・・・は終わって、今は休学してるの。」
「そうか・・・。免許はとれた?」
「もちろん。あさって公安にいって免許受け取り。」
「あさってか。」



彼女の口調は明るかった
1ヶ月近く行方知れずで、実家に帰ったか
それとも最悪、学校すらやめているかと想像していたから
僕の安堵は計りしれない


彼女に会いたくなった
こんなにわけもなく会いたくなった人もめずらしい


「受け取ったあとは、空いてる?」
「え?」
「会える?ドライブしよう。」
「ドライブ・・・」


探るように彼女は繰り返す


「好きなところ連れていくよ。もちろん、こわいからまだ俺の運転だけど!」
「失礼な〜。」


けらけらと笑う彼女の声が聞こえて
僕は心のそこから、今度こそ胸をなでおろした
電話なんかじゃなく、はやくその笑顔が見たい
ふと、妹を思うときの気持ちに近いことに気付く


「空いてるよ。じゃあ、ドライブ連れてって、北山さん。」
「了解。車洗っとくよ。」
「ありがと。」




そのとき、含み笑いをした彼女の声は
その日から2日後、彼女に会えるまで
僕の耳を離れずにいた



























































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(c)君に僕のラストソングを


photo by <NOION>
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