夕暮れ色













「リクエストは海だったよね。」


モスバーガーを出るころ、僕らは今日一日のプランを練っていて
彼女は海を見にいきたいと言った
彼女の実家が内陸部で、海はほとんど見たことがないそうだ


時刻は16:30
彼女の好きな雑貨屋さんに立ち寄ったら
なんとそこで2時間も時間をつぶしてしまったのだ


彼女は学校で使うようなステーショナリーや
部屋に飾るインテリアや観葉植物、アクセサリーなどに夢中になり
僕は真剣にキッチン用品を物色していた
あんな女の子であふれかえった雑貨屋さんでも
案外ちゃんとしたキッチン用品が並んでいて感心した
人目を気にせず、あんなに女の子だらけの店に長居したのも久しぶりだった
僕に気付いた客がいたかどうかわからないが
そんなことも、途中からどうでもよくなっていた

僕はとりあえずお台場に車を走らせた








「北山さん、歌手になってよかった?」


彼女が唐突に尋ねる


「うん、よかったよ。」
「どんなときそう思う?」
「・・・やっぱりライブ、かな?」
「ライブ?」
「うん、ライブ中とか終わった後に思うよ。」
「いいなぁ。気持ちいいんだろうね。」


彼女は今度も、素直な気持ちでそうつぶやく
そこには妬みや羨むかげりは全くなく、
ただ純粋な憧れのような音だけが残った


「都ちゃんは、どうして看護師になろうと思ったの。」
「あれ?話さなかったっけ?」
「うん、聞いてない。」




彼女はすこしの沈黙をおいてから、
すこし照れ笑いをしながら話し始めた




「わたし、おばあちゃん子だったの。すごく。」


僕はすこし、オーディオの音量を落とす


「わたしが小4の頃、おばあちゃん病気で入院して、病院が学校に近かったから毎日お見舞いにいった。」
「毎日?」
「うん。そろばん塾をさぼって行ったりしてた。」
「ほんとにおばあちゃん好きだったんだね。」
「うん。だけど、おばあちゃん調子あんまり良くなくて、日に日に弱っていったの。子供の私でもわかるくらい。
 わたし、毎日ロビーでお医者さんを待ち伏せて話しかけたの。おばあちゃんを助けてくださいって。
 でも、軽くあしらわれるばかりで、わたしどんどん不安になっていった。
 相手は子供なんだから、嘘でも”大丈夫だよ”って言ってくれればよかったのにね。
 でも、毎日、必ず話しかけてくれる看護婦さんがいたの。”大丈夫だから、明日も来てあげてね”って。」
「白衣の天使だね。まさしく。」
「そうなの。不安になったり、怖くなったりすると必ず励まして言ってくれたの。”おばあちゃんのところに行ってあげて”って。
 わたし、あの看護婦さんのおかげで、より多くの時間をおばあちゃんと一緒に過ごせたと思うの。
 おばあちゃんにとって、それが一番しあわせだって思って、そうしてくれたんだと思う。」
「それで、憧れて看護師めざすようになったんだ?」
「憧れ・・・っていうより、その時すでに確信してたの。私、絶対看護婦さんになるって。」




強い語調だった
揺るぎない決意がそこにはあるようだった
彼女にとって、事実である過去と想像である未来はしっかりと繋がっているのだ




「俺たちさ、さいしょから"プロになりたい""これで食っていきたい"って思ってたわけじゃないんだ。
 5人が5人とも、実はちがった方向性を持ってたんじゃないかとは思う。当時はね。
 でも、それが10年続いて今、こうして一緒にやってる。周りからは危ぶまれながらも(笑)
 それは、運命みたいなもんだって、俺は思う。運命や運に味方されて、人に支えられてはじめてこの形になっただけ。」
「5人の力だと私は思うけど。」
「それはもちろん、あるとは思うよ。でも、重圧が拡散したとは思うんだ。5人いるだけに。」
「重圧・・・」
「君は自分との戦いだもんな。つらいと思う、ほんとに。」


彼女がハっとしたような間がある


「ひとりで生きていける人間なんていないから、支えをなくして崩れてしまうのは仕方ないことだよ。」
「・・・」
「別の支えを見つければいい。誰かに寄りかかることは君が思ってるほど、恥ずかしいことじゃないんだから。」






そうなんだ
自分の弱さを許していくことが、大人になるためのコツだ






「あのまま、慣れ親しんだ彼に寄りかかったままでいることももちろん幸せだったろうと思うけど、
 一度それを失った君は、また少し、ひとにやさしくできるはずだと思うよ。」










そのとき、夕暮れに包まれたレインボーブリッジにさしかかる
都は窓から遠い空に視線を投げかけて






「ありがと。」




しっかりとそうつぶやいたが、
彼女の瞳が涙にぬれていることが僕にはわかった



彼女と海を眺めたら、ある場所に彼女をつれていこうと
僕は心に決めた



























































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(c)君に僕のラストソングを


photo by <NOION>
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