僕の役目













「今日はほんとにありがとう。楽しかったし、ごはんもおいしかった。」



晩飯を食べて車にもどったとき
都は僕をふりかえって笑顔でそう言った


「いえいえ。俺もいい息抜きになった。」






エンジンをかけて車をバックさせる
店の駐車場から大通りにぬけたとき、
彼女の満足げな横顔を見て、一瞬ためらう


これから僕がしようとしていることは
彼女をまちがいなく動揺させるだろう
でも、彼女と拓矢のことを思うと
それは僕の役目のような気さえした

彼女と出逢った運命と、彼と知り合った偶然は
神様がきっと僕にその役目を果たせと言っているのだと
そんな気さえしている





どうなるかなんて先のことはわからない
だけど、僕は今そうするべきなんだ

このまま二人がすれ違ってしまわないように
きっかけぐらい与えてもいいだろう?







僕は彼女に連れて行きたい店があるとだけ言って
青山の街を抜けてゆく
僕はらしくもなく、ハンドルを握る手に汗をかいていた
















彼女の表情がくもったのは、店の駐車場にさしかかった時だ


「どういうこと?」




彼女は僕を振り返って、けわしい顔をする
行き先が拓矢のバイト先だということに気付いたようだ





「拓矢と会ったの?」
「偶然ね。俺すぐ店のスタッフと仲良くなるもんだから。
 ただ、君の彼だと気付いてたら仲良くはならなかっただろうけど。」
「拓矢は知ってるの?」
「いや、何も。俺はただの客だよ。」
「どうして私を連れてきたの。」
「会ったほうがいいと思って。」
「会いたくない。」


ぴしゃりと彼女は言う
その瞳は、かなしく揺れていて
僕を裏切り者でも見るような目で見据えている


こんな展開は当然、予想していた





「ごめん。余計なことだとは思うよ。どうなるかなんて俺にもわかんない。
 でも、俺は君をせめてここまで連れてくる義務があると思った。」
「義務?」
「いや、そんな堅苦しいことは言いたくない。二人を知って、俺がしたいと思ってこうした。
 会いたくないなら帰ろう。ここから先は、君が決めて。」




彼女の唇はかすかに震えている
決めかねているのだ
どちらを選んでも、後悔するような
どちらを選んでも、解決なんてしないような
出口のない迷いに陥っている


でも、ここで彼女自身に決めさせなければ意味がない












「・・・会いたくない。」

「いいの?」
「・・・うん。」
「本当に?」
「そうやって何度も確認するのってずるいと思うわ。動揺してるのをわかってて。」


大人びた物言いだと思った
ここであえて時間を持たせるのも、彼女にとって酷な気がした


「わかった。楽しんでたのに、ぶち壊すようなことして、ごめん。」










謝った自分も、らしくないと思った
彼女を誘導しているつもりが、逆に振り回されている気すらする


でもそれは、なんだか悪くない気分でもあった
たとえば人とつきあうって、本来そういう形なんじゃないかと思うから
僕らが、勝手に器用になってしまっているだけで
















彼女の横顔をもう一度確認して、車のエンジンをかける
車を発進させて、駐車場内で向きを変えようとハンドルをきったその瞬間だった































「待って!」













となりから、彼女の鋭い声が聞こえた





ふりかえるとはりつめた瞳で彼女は僕を見つめていた



























































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(c)君に僕のラストソングを


photo by <NOION>
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