心地良い嫉妬



















「きたやまさんてお仕事なにやってるの」


コンビニで買い物をして
二人共あたたかい飲み物を買って
飲みながらの帰り道
都(彼女の名前だ)は唐突に切り出した


僕はつい、温かいお茶を吹きそうになる




・・・そうか、やっぱりこの子知らないんだ。




「いつも帰ってくる時間バラバラなわけでしょ?おしゃれして出かけてるし。」
「おしゃれはしてないけど。確かに普通のサラリーマンには見えないよね。」
「警察の人にアーティストって言ってたよね。ファッションデザイン?画家さんとか?」
「はずれ。結構簡単だよ。そのうちわかるんじゃない。」
「えー」
「方面としては音楽だよ。絵は残念ながら昔から苦手でさ。」
「ミージシャンなんだ。」
「まぁ、そんなとこ。」
「・・・すごいなぁ。」


ため息にも似た彼女の声があまりに深く響いて
僕はつい、彼女を見返す


「都ちゃんの目指してる仕事の方がずっとすごいよ。ちょっとやそっとの気持ちでできる仕事じゃないよ。」
「ううん。看護師や医者っていうのは知識があればなれる職業なの。
 確かに人の命を預かるってすごいことみたいだけど、それは努力次第だから。」
「その努力がすごいよね。学生時代友達にもいてさ、俺には真似できないなぁって思ったもん。」
「・・・きたやまさんがどんな音楽作ってるのかわからないけど、やっぱりそういう才能って持って生まれたものじゃない。
 どんな努力も知識も比べ物にならない力だと思うの。」


僕は、若干ハタチの女の子の言うことに
不覚にも胸が熱くなってしまった

いや、若干ハタチの女の子の口から出た言葉だからこそ
感動しているのかもしれない



「きたやまさん、歌ってるの?」
「うん。」
「そうなんだ!」
「一応CD出てるけど。」
「うそ!そうなの?早く言ってよ!買う買う!」
「あ、ありがとう。」
「なんていうグループ?」




・・・・・・おっと

これ以上は控えさせていただこう




「・・・きたやまさん?」
「じゃあ出逢った記念に、CD今度プレゼントするよ。気に入るかわからないけど。」
「え」
「彼氏と聴いてよ。今度会えるときまでに用意しとく。」



僕がそう言うと、彼女はすこしだけ
照れたように下唇を噛んで微笑むと
キラキラした瞳は三日月型になった






そうか
彼女は、恋人を想うとき
こういう顔をするのか






僕の気に入った彼女の笑顔が見られて
満足を覚えながらも
その笑顔が純粋に僕に向けられたものではないことに
ほんの少しだけ物足りなさを感じたまま
僕は微笑み返した


でも、その物足りなさは不思議と心地良く心に残った





「また連絡して。CD、持って行くから。」
「なんかしてもらってばっかりで悪いよ。」
「いいよ。手当てしてくれたお礼。」
「私がケガさせたんだもの当たり前だよ!」
「その話はチャラ。だって殴ったその瞬間までは君は俺を変態だと思ってたわけで、
 前も言ったけどあれは正当防衛だよ。相手をまちがっただけ。君の行動は正しかった。」
「でも・・・」
「ケガをさせた君と俺が出逢ったんじゃなくて、ケガをした俺と君が出逢ったってこと。」
「・・・むずかしい。」
「そうかな。ていうか自分の曲を聴いてもらうんだから、むしろ俺はありがたいけど。」




僕の言葉に、彼女はまた下唇を噛んで笑った

今の僕の言葉は、彼女を安心させるためのもので
それに対してきちんと笑顔で反応が返ってきたことが
僕の心を温かくさせた


"素直"というのはこういう子に使う言葉なのかも


自然とそんなことを思った




「じゃあ今週木曜の夜、連絡して。」
「木曜?」
「うん。木曜の夜なら確実に部屋にいるから。」
「携帯に?」
「よろしく。」
「わかった、電話します。」









都は、きちんとそう約束してくれたのに
木曜の夜、彼女から電話はなかった



























































BACK     NEXT

(c)君に僕のラストソングを


photo by <NOION>
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送