早朝、駅前で



















「あれ」


翌朝、おきて朝飯の準備をしていると
携帯のランプが点滅していることに気付く


開いてみると未登録の番号から二度の不在着信
やっぱり、夢の中で聞いた着信音は彼女だったらしい
時刻は23:34と23:35の二度
夜とは言ったけど、時間をもう少し明確にして約束すればよかった

そう思ったが現在の時刻は朝の7時
こんな時間にかけ直しても迷惑だろうと思い
僕は携帯をポケットにつっこんで仕事に出かけた


昨夜の夢の中で聴こえたのは、着信音だけではなかったことを
僕はそのときすっかり忘れていた






エレベーターをおりて、郵便ポストをチェックする
朝日はすぐそこまで迫っているが控えめだ
すっかり冷えてきた朝の風を感じながら
僕はまっすぐにマンションのエントランスを出た


「「・・・あ」」


声をあげたのはほぼ同時だった
アパートを出てきた彼女と、ちょうど鉢合ったのだ


「おはよう。」

彼女は朝陽の逆光で、よく表情が見えないが
ぺこりと頭を下げてつぶやく

「おはよう、ございます。」


僕が駆け寄って横に並ぶと、彼女は少しうつむいた

「昨日はごめんなさい。電話、あんな時間になっちゃって。」
「いや、いいよ。学校だった?」
「あ。いえ・・・人と、会ってて。」
「あぁ。」

やっぱり、彼氏との約束を優先させたのか。
少しだけ翳る気持ちを、すぐに取り払って僕は彼女を見た
そして、次に用意していた言葉を亡くしてしまうほど、僕は息を飲んだ




「・・・どうしたの?その顔。」


僕がつい尋ねると、彼女はハッとした顔で僕を見上げた

やっぱり・・・

彼女の瞳は真っ赤になっていた
はれぼったくたっぷり水分を含んでいて
もち肌の子が泣きはらしたとき特有の
赤みがかったまぶたになっていた
彼女はすぐに僕から目をそらして言葉を探す

すかさず僕が切り出す



「何かあったの。」
「・・・別に。」
「でも・・・」
「本当に、大したことじゃないから。」
「・・・」
「ほんとに・・・」

力なく他に言いようがなさそうに、彼女は繰り返した
僕はそれ以上の言葉が見つからないまま
ようやく顔を出した朝陽にさらされながら歩いた

こんなに近くに駅があることに、はじめてもどかしく思う




「じゃあ、私電車だから。」


彼女は、無理をしてゆっくりと笑顔をつくって
僕に背をむけて歩道にむき出しの改札に向かう
僕はただ、あぁ、とだけつぶやいて彼女の背を見つめた

すると彼女は立ち止まって一度だけ振り返る
僕はとっさにドキリとする


「・・・本当にごめんなさい。昨日は。」
「いいんだ。気にしないで。俺も早く寝ちゃったし。」
「・・・」


もう一度だけ、彼女は朝陽の中で笑顔をつくり
一瞬の間のあと目をそらすころには、もう笑顔は消えていた








「・・・なんだよ・・・その顔。」


ひとりでにつぶやいていた

駅に背をむけて、歩き出した僕は思った







あれは彼女の笑顔じゃない
あれは彼女の笑顔じゃない



そのとき待っていたかのように、記憶が砂時計の砂みたいに
するすると落ちてきてよみがえる


着信音の前に聞いた、バイクの走り去るあの音・・・





彼女が昨夜、最後に会ったのは・・・



























































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(c)君に僕のラストソングを


photo by <NOION>
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