らしくない



















「北山、ケガ治ったのかよ。」


てっちゃんが読み終えた雑誌をテーブルに放って
僕を見て尋ねた
お茶を飲んでいた黒ぽんもこちらを見る



「あぁ、もうすっかりいいよ。医者にも行ったし。」
「その女の子とは?」
「あぁ、何回か会ったよ。」
「何回も会ってんのかよ!?」
「そりゃ家が隣なんだから、会うこともあるよ。偶然だよ。」
「ならいいけどよ・・・」


てっちゃんはあからさまに安心した顔
一体僕をなんだと思っているのか


「でも、今朝会ったとき目が真っ赤だった。」
「寝不足だろ。」
「いや、あれは多分、泣きはらした顔だった。」
「・・・そうなの?」
「笑顔がぎこちなかったから。」
「・・・」
「昨日彼氏きてたみたいだし、なんかあったのかな。」
「・・・」
「もしかして・・・」
「おい。」
「ん?」



てっちゃんは身を乗り出して僕をまっすぐに見た



「お前、ストーカーか。」
「は?」
「笑顔がぎこちないとか彼氏とか、そこまで気にするか?」
「別にいいだろ。」
「初対面でいきなり殴りつける女だぜ?関わらない方がいいって。」
「初対面でって言ったって、彼女は俺を変質者だと思ったんだから仕方ないよ。」
「だからって殴るか?しかもパーでもグーでもなく、モノで。」
「怖がりなんだよ。頼れる人が近くにいないんだ。」
「だからってその被害者のお前がなんでそこまでするかね?」
「そうだな、第二の被害者を出さないためかな。」
「・・・」


冗談で返した僕を見て、あきれるてっちゃんに
僕は言い返す


「彼女はべつに怪しくも危なくもないよ。
 それどころかあんな頼りない子、放っとけない。」







自分でも何を言ってるんだろうと思った

それは警察に「正当防衛だから」と言ったあのときから思ってた
別に彼女を助けるつもりだったわけじゃない
ズキズキと痛む頭で、思っていた
こうでもしないと自分の身を守れない女性達の生きづらさ
こんなに若く、頼りなげな女の子でも
凶器(?)を振りかざさなきゃいけない世の中
そんな女性を、一人でも救えるなら
彼女を、すこしでも安心させることができるなら


そう思っただけだったんだ





僕はもちろんストーカーじゃないし、彼女に恋愛感情なんて抱いてない
彼女と出逢った偶然を見逃せないだけで
それに、昨夜、もし彼女が電話をくれたとき僕が起きていたら
きっと彼女は僕に、涙のわけを打ち明けたに違いないし
もしかしたら僕に、助けを求めたかもしれない

女性にやさしすぎるのは僕の悪いクセでもあるけれど
彼女のあんなニセモノの笑顔はできれば二度と見たくない




僕はただ、彼女の笑顔が好きなんだから










ひとりの女性を、目で追ってしまうなんて
その笑顔が頭から離れないなんて
一体どれくらいぶりなんだろう


まるで彼女くらいの年に戻ってしまったような感覚
これが恋愛と呼ばなくても、今の僕が、”らしくなくなっている”のは確かだった



























































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(c)君に僕のラストソングを


photo by <NOION>
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