悲しみ























目が覚めるといつもと違う風景だった

普段とちがう場所で寝ている自分に気付くのに

すこし時間がかかる



私はリビングのソファの上で

うたた寝していたはずなのに

肩まで毛布がかけられていた



私は昨日浩二に私のベッドで寝るようすすめた

きっと浩二がもう一度目を覚まして

私に毛布をかけてくれたんだろうと思った



すこし重い頭をもちあげて起き上がると

窓の外はうっすらと青白い



時計を見ると、まだ明け方の5時をさしている


よかった・・・


今から準備しても、出勤には間に合う

昨夜持ち帰った仕事は今夜片付けよう

そこまで考えて私は昨夜の出来事を思い出した



マンションの前で待ち伏せしていた浩二

かみ合わなかった会話

アメリカ行きの報告と私の涙と

浩二の涙



私を抱きしめたまま肩を震わせて

「いなくならないで」

とつぶやいて

どれくらい時間が経ったあとか

浩二は眠ってしまった



目を閉じると痩せたことが余計にわかって

眠ってしまった浩二のかさついた頬にふれて

私はもう一度涙を流した



そこに溢れたものは

かつて感じていた「守りたい」という

両手に抱える愛しさではなくて

「傷つけた」という背負う愛しさだった



その大きな違いが

私に重くのしかかる



あんなに大好きだったはずの浩二に

どうして私は負い目しか感じなくなったんだろう





寝室に入ると

ベッドに眠る浩二の黒い髪が見えるそばに寄って

ベッドに腰かけても

浩二はぴくりとも動かずに熟睡していた



灯りがつけっぱなしになっている電気スタンドを消して

カーテンの隙間をしめて

部屋を暗くして浩二を残し

私はリビングに戻る






おはよう。仕事がたまってるから会社に行きます。
おなかが空いたら好きなものを食べてね。
あんまりいいものないけど・・・。
色々ごめんなさい。
全部勝手に決めて。


私はいなくなるわけじゃないよ。
こんなに必要とされたのははじめてで
なんて言っていいのか、正直わかりません。


でも、ありがとう。


ただ私は浩二を傷つけたくない。これ以上。
浩二に笑ってほしい。
それだけです。


会社来てね。
                       』







浩二は携帯を持って来なかったから

私はまっしろな便せんに書いて

テーブルの上に置いて 周りを見渡して

一輪のバラの花が生けてある一輪挿しを手紙の傍に置いた



化粧台の上に

浩二がくれた指輪の箱が置かれているのに気付いて

起きたあと浩二の目に触れないよう

とっさに会社行きのバッグにひそませて

私は会社に出かけた



浩二が目を覚ますまで待つ余裕がなかった

目を覚ました浩二と向き合って話す自信がなかった



本当に別れを恐れているのは私かもしれない






浩二は私に会いたくないと言いながらも

それでも、会いに来てくれたのに

私は、またも浩二から逃げた



浩二がひとり目を覚まして

この手紙を読んで

どんな気持ちになるか


私には考えられなかった


私は、冷たい人間だ





その日も、浩二は結局会社に来なかった



















RRRR



その夜、会社を出ようとタイムカードをきったところで

携帯が鳴った



カツさんからだった



「いそがしいとは思うが、今から店に来られるか」

カツさんの声は

それまでにないような思いつめた声だった



「・・・どうかしたの?」

「今浩二が来てるんだが・・・どうしたらいいかわからないんだ」

「え?」



会社のロビーにむかっていた足が止まる

警備員のおじさんがこちらをちらりと見た



昨夜の浩二の様子が脳裏をかすめた



「・・・浩二、そこにいるの?」

「あぁ、今電話してることは知らないが店にいる。頼む。ほんの5分でいい・・・」

「今すぐいく」



私はすぐに電話を切って

会社を飛び出した





私はわけがわからないまま、悲しみでいっぱいになった























































































































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