真実    vol.2


























「すごく怒ってたわよ、編集長」




結局事務所に帰ったのは
夜空が落ちてきたあとで
事務所に帰ったら、俺のデスクにまっさきに
早乙女が近づいてきた




「これ以上なにを怒ることがあるんだっつーの」

「わからないけど、佐藤はどこだーって叫んでたわ」

「自分が張り込んでこいっつったんじゃねぇかよ」

「期待してるのよ。あなたのこと」



微笑んで俺を見上げる早乙女に
俺は一瞬間をあけて微笑み返す


俺のこと好きなら
もうすこし、ビジネスデリカシーってもんを
持ってくんないかね


そんな言葉があるかどうか知らんが
期待してるとか、頑張れとか
そういうのって、タブーなんじゃねぇの?
少なくとも、今の俺のような状況には





「Jの写真、撮れたの?」



ほらきた

これだもんな



「撮れたよ」

「そう!よかったじゃない」

「でもツーショットじゃねぇよ」

「そう。どういう計画なの?」

「どういうって?」

「密会の情報はあるの?」

「さぁ」

「さぁって・・・」



早乙女が眉をしかめる

たしかに、俺が仕事に対して
ここまで曖昧な返答をしたのははじめてだ


だがそれが、彼女になんの関係がある?
Jが俺の幼馴染みの淳子だったとか
そんなこと以前に、早乙女が俺のなにを知ってる?と
心底思えて、だんだんと苛立ってくる







「ねぇ、どうしてそんな風なの?悩みでもあるの?」

「悩み?」



質問がくだらなさすぎて
つい鼻で笑ってしまう



「この記事に関しては何だか上の空じゃない」

「んな事ねぇよ」

「そうかなぁ」



我慢がならなかった
それ以上ここに居座らないでくれ

はやくこの話は切り上げて
自分のデスクに戻ってくれ

そう思うのに、彼女はそこを離れようとしない




今までは仕事に差し障ると思って
彼女に対しては必要以上の言葉も、以下の言葉も
避けてきたのに・・・












「・・・あのさぁ」






声が一段と低くなる

俺の一番残酷な部分がでる前兆だった






「ひとの仕事に口出さないでくれる。すげぇ不愉快。
そんなに気に入らなけりゃ自分がやりゃいいじゃん」











早乙女の表情が一瞬で凍りつく
まわりの同僚も、耳を疑うように顔をあげる


この手の女は、男の仕事に口を出すとどうなるか
ここまで言わなきゃわからないんだ




彼女はそれっきり何も言わずに自分の席につき
はじめは仕事にむかっていたけど

5分も経たないうちに荷物をまとめて
足早に帰っていった










その後残っていた社員も
一人、また一人と帰宅し
事務所に一人になってはじめて我にかえる







「人の仕事に口出すな」・・・か


そう大口叩いたからには
この件に関しては完全に仕事と割り切るべきだな




早乙女を傷つけたせいなんかじゃない
俺自身のために
淳子への中途半端な情は捨てようと決意した


淳子を守れるものなら守りたかったが
俺は負ける戦はしない


自分自身の仕事へのプライドにも
勝てる気がしなかった
















「早乙女、泣いてたぞ」



次に森田に会ったのは
早乙女を泣かせた(らしい)日から
一週間ほど経ったころ



その日も淳子の職場の前の
喫茶店で俺たちは時間をつぶしていた


森田は鍛えぬいた大きな体を
苛立たしげに揺らしている
幹のような太い腕を組みなおした




「なんで」

「とぼけるなって。ひどい事言ったんだろ?」

「お互い様だよ」

「早乙女はお前を心配して、悩みがあるなら聞こうと思っただけって言ってたぞ」

「それが余計なことなわけ」

「お前なぁ、心配されるってのは幸せなことなんだぞ?」

「じゃあ早乙女にありがとって伝えてよ」

「バカ。そんなので済むわけないだろ」



森田は完全にあきれた顔で
小指で耳をほじる


そして大きなため息をつく



「まぁ何にしろ、最近お前の様子がおかしいのは確かだよ」

「なんだよ急に」

「仕事にも覇気がないしさ。君島なんてこんな上等な獲物そうそういねぇよ?
 相手が一般人なだけにうちの一人勝ちかもしんねぇって噂だし」

「マジ?」

「お、やる気出た?」

「ほんとに?他誌は気付いてもいねぇんだな?」

「あぁ」












どこの雑誌よりもさきに
スクープを載せてみせる


それこそが俺の仕事への情熱だった







俺は腰をあげる





「今日こそ撮るぞ。ツーショット。編集長もシビレが切れる頃だろ」























































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