真実    vol.3


























手っ取り早く記事にするためには
淳子と直接コンタクトをとるのが一番だと俺は踏んだ


幼馴染みという立場をフルに利用して
ただ職場の前に張り込んでいたのでは
ありつけないような情報を直に手に入れるしかない


俺は心に決めた




「森田、今週で賭けるぞ」

「は!?お前やる気に波ありすぎ・・・でもやる気になってくれてよかったよ」

「情報はすぐ電話するから。お前は事務所で待機しろ」

「は!?張り込みは?」

「そんな事してたら次号が出ちまうんだよ」

「ってことは、アテあるのか?」

「・・・ある」

「よっしゃ」









俺はすぐにアパートに帰って
その頃持っていた一番高いスーツに袖を通した

ネクタイをしめ
入社式のとき一度使ったきりだった整髪料を
棚の奥から引っ張り出した



とにかく淳子に怪しまれるのだけは避けなければいけない
もし俺が記者だと気付かれれば
淳子に罵られ軽蔑されるばかりか
記事は永久にお蔵入りとなる恐れすらある


俺は細心の注意を払って鏡の前に立ち
気合をいれて、アパートを出た






淳子の会社は正面から見上げてみれば
思いのほか大きかった
うちの編集社が丸々二つ入ってしまいそうな大きさだ
あんなおっとりした(というかボーっとした)淳子が
一体どれほどの努力をしてこんなでかい会社に・・・


そこまで考えて自分に舌打ちする




ぷっくりした白い肌に
ピンクに染まった頬
真っ黒なおかっぱ頭の
幼い淳子を思い浮かべて
すぐに打ち消す








バカ野郎め



あの女、君島洋次の愛人なんかになりやがって










「淳子」



俺は軽薄な明るめな声で
約15年ぶりくらいにその名前を呼んだ

淳子が会社を出る時刻
午後5時45分
陽がかたむきかけたオフィス街で
俺は淳子に駆け寄った

弾かれたように振り返った淳子は
化け物でも見るような目で俺を見た

どうやら東京では
彼女を名前で呼ぶ男は他にいないらしい
君島洋次を除いては




「・・・まさか、まさくん!?」


なつかしい呼び名で俺を呼んだ淳子は
目を輝かせて満面の笑みになり
泣き出すかと思うほど感激してくれた


「やっぱり。
仕事でよくここ通るんだけどさ、受付にいるの淳子なんじゃないかと思ってたんだ。
こっちに出てきてたんだな」

「うん。就職と同時にね。まさくんは?」

「俺は大学からこっちだったよ」

「そうなの。お仕事はなにを?」

「住宅関連の営業」

「営業?大変ね。会社はこの近くなの?」

「いや・・・割と遠いかな」



俺たちはとりあえず必要となる情報を交換し
今度食事でも、という話になり
俺は淳子に電話番号を渡した
淳子も手帳をちぎって番号を書いて俺にくれた




じゃあ、約束があるから

と言って淳子は手を振って
うれしそうに歩いていった


淳子は、昔とちがって
順序よく話し、優雅に歩き、完璧な後姿をしていた


当たり前だった
俺だって、しゃべり方まで変えて
今この時も幼馴染みを利用し、突き落とそうとしている
淳子からしたら俺の変わりようの方がひどい話だ


人間なんか変わるものだし
原形が一番だったとも限らない




でも、淳子が変わったのは
君島洋次のせいな気がして
素直に「きれいになった」などと思えなかった







俺はその晩淳子に二度電話をし
三度目で淳子は電話に出た


夜遅くに聞く淳子の声は
夕方聞いた声よりもすこし低く聞こえた




俺たちは二日後に
食事に行くことになった























































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